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埼玉・滝沢酒造 老舗が極めるシャンパンとの出合い

ぶらり日本酒蔵めぐり(3)

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NIKKEI STYLE

JR深谷駅から旧中山道に入り西へ15分ほど歩くと、レンガ造りの煙突と江戸期の風情を伝える建物が見えてくる。軒先には枯れた色の酒林。滝沢酒造(埼玉県深谷市)はひと目で酒蔵とわかるたたずまいをまとう。2001年以降、全国新酒鑑評会で10回の金賞を獲得した実力派がスパークリング日本酒という新境地に踏み出し、10月には新商品を発売する。

酷暑の8月上旬、さいたま市内で催された、地酒を楽しむ集いで好評を博した銘柄の一つが滝沢酒造の発泡性純米酒「菊泉 ひとすじ」だった。埼玉県内の酒蔵を応援するのが会の趣旨なので卓上にビールはない。開会から乾杯まで時間がかかったこともあり、ワインクーラーでほどよく冷えた「ひとすじ」は飲む者の渇きを癒やした。

「ひとすじ」の発売は2016年。販売中の商品で仕込みは3年目となった。社長で杜氏(とうじ、製造責任者)の滝沢英之さんは「着実に売れ行きを伸ばしています」と話す。仕込み量は年ごとに1.5倍に増やしているという。主な販路は百貨店で、「試飲即売のイベントなどでは30~40代女性の反応がいい」そうだ。商品開発の当初の狙い通りに成長しつつある。

ドイツ・ベルリン市内の高級日本料理店とは継続的に取引する仲になった。欧州ではハンガリー、アジアでは台湾や香港の店からも引き合いがあった。輸出にも手応えを感じ始めていて、「やはり挑戦したいのは米国」だという。10月に予定されている商談会に参加する意向で、米国向けの取引の突破口にしようと準備を進めている。

なぜスパークリング日本酒を手がける気になったのか。滝沢さんの構想の原点は修業時代にさかのぼる。滝沢さんは1994年に早稲田大学教育学部を卒業後、「多満自慢」の酒蔵、石川酒造(東京都福生市)に入社した。2年目、発酵の初期段階から毎日、醪(もろみ、日本酒の前段階で発酵中の液体)の成分分析と利き酒を繰り返すうち、あることに気づいた。

「甘みと酸が絶妙のバランスをみせる瞬間がある」。発酵が始まって10日目あたりのことだ。発酵が始まると酵母の働きで糖がアルコールと炭酸ガスに変わってゆく。発酵が進むと炭酸ガスは仕込みタンクの外に放出され、アルコール分は残留して日本酒になる。発酵の途中に、まだ炭酸ガスが放出され尽くさない状態でおいしい過程があるというのだ。

もっとも、これは滝沢さんの大発見というわけではないらしい。「10日目の醪の味は、酒造りに携わる者なら誰でも知っています。それを飲む人に届けられないか。商品化できないか。そのことをずっと考えていました」。23歳のときに得た着想が具現するまで20年あまりを要した。

「ひとすじ」は発泡するが、炭酸ガスを充填しているわけではない。天然酵母による瓶内二次発酵タイプに分類される。原料の酒米は60%まで削る。酵母は華やかな香りが出て大吟醸に好適とされる「きょうかい1801」など2種類を使う。タンクで発酵が進んだ段階で酵母とともに瓶詰めし、瓶内で二次発酵を促す。瓶詰め段階ではまだ濁り酒だ。

瓶内発酵が進み炭酸ガス濃度が上がって5気圧程度に達すると、瓶を逆さにして澱(おり)を瓶口付近に集め、ネックフリーザーと呼ばれる装置に差し込んで澱だけを急速冷凍し、取り出す。この作業で多少、瓶内のガス圧は下がるが、3.5気圧以上は確保して封をする。ちなみにネックフリーザーはフランスのシャンパーニュ地方でシャンパンを造る際に使われるものだ。

「難しいのは瓶内のガス圧のコントロールです」と滝沢さんは説明する。瓶内の気圧が上がりすぎれば吹きこぼれるおそれがあり、最悪の場合、瓶が破裂する。ただ、酵母は冷やせば活性を失う。瓶内での寿命は1カ月程度。「ガス圧が上がりすぎそうなら冷やせばいい」。滝沢さんによると「むしろ苦労したのは、どうすれば瓶内のガス圧を上げられるか、でした」。

瓶内発酵が進まないまま酵母が活動しなくなると、気の抜けたサイダーのようになる。シャンパンでは認められている酵母の瓶内添加も、日本酒では認められていない。酵母を継ぎ足せば日本酒は名乗れず、リキュールになってしまう。編み出した対策が「瓶内発酵のために、強い酵母を使う」方法だった。その役割を担うのが「きょうかい901」という酵母だ。

10月、新たにスパークリング日本酒を発売する。特徴は薄紅色であること。銘柄もパッケージもまだ決まっていないが、「『ロゼ』をキーワードに、米国での商談会には持参したいですね」と滝沢さん。薄紅色は「赤色酵母」という酵母に由来するという。飲んでみるとベリー系の香りが際立ち、コメ由来の味わいは隠されている。「ひとすじ」より甘みが強い。

「華やかさや高級感を演出できるスパークリング日本酒」として売り出す。「濁り酒では赤色酵母を使った商品もありますが、瓶内二次発酵の透明タイプでは初めてでは」。これまで透明タイプがなかったのは「醪をこすと赤い色が抜けてしまう」からだそうだ。「他の蔵から教えてもらったり論文を研究したりで、なんとか赤い色を残すことができました」

2016年11月、スパークリング日本酒を造る酒蔵9社が集まってawa酒協会(代表理事・永井則吉永井酒造社長)が発足した。日本酒の輸出機運が高まり、東京五輪パラリンピックを控える時期に、乾杯酒として日本酒がシャンパンやスパークリングワインに取って代われるよう存在感を高める、という思いを込めた。

協会は「awa酒」の商品開発と品質について基準を設け、認定制度を運用している。シャンパンの品質基準などを参考に原料や瓶内ガス圧など、細かく規定している。試飲イベントなどを催しスパークリング日本酒の知名度を高めるのも協会の使命だ。「1社ではできない販促活動を展開できる」と滝沢さんは評価する。加盟は13社に増えた。

滝沢酒造は1863年、埼玉県小川町で、越後杜氏が創業した。1900年、現在の場所で、廃業する酒蔵の建物を引き継いで以来、酒造りを続けている。仕込み水には今も、荒川の伏流水を井戸でくみ上げて使っている。軟水に分類されるが石灰岩由来のカルシウムが豊富で適度にミネラル分を含むとされる。

滝沢さんは石川酒造での修業後、国税庁の付属機関だった醸造研究所(広島県東広島市、現・酒類総合研究所)を経て、27歳のとき実家に戻った。当時の杜氏の下で9年間、酒母(コメ、麹、水とともに酵母を培養する、醪の前段階)造りなどを担当しながら、酒造りを改めて学んだ。雑念を振り払い大吟醸造りに夢中で打ち込んだ。

滝沢さんは造りたい理想の酒を「きれいなお酒。料理の邪魔をしない名脇役」と表現する。主役の料理を引き立てつつ、控えめに存在感を主張する食中酒といった趣だろうか。とりわけ大吟醸は「すべての日本酒の最高峰だと思うので、きれいな酒質、キレがあってある程度辛口のものを目指しています」。

石川酒造では淡麗な酒を造る越後杜氏、滝沢酒造ではうまみを重視する南部杜氏に仕えた。麹造りや酒母の温度管理など、両者の酒造りの微妙な違いを体得した。杜氏に就任して11年、うまみに偏りすぎない独自の理想の味わいを追求している。

全国新酒鑑評会では9年連続で入賞を果たしているが、金賞は4年連続で逃した。「周りの進化に後れをとっているのかもしれません」と反省を口にしつつも、「金賞受賞酒と遜色ない酒を造れてはいます」と自信ものぞかせる。鑑評会では「甘めの酒が評価されるすう勢かもしれない」と分析しており、今冬の仕込みでは洗米工程を見直すなどの策を練っている。

 埼玉県深谷市は江戸期には中山道の宿場町としてにぎわったという。滝沢酒造はかつての目抜き通りに店を構え、シンボルである煙突は高さ20メートルを超える。同市は明治期の実業家、渋沢栄一生誕の地としても知られる。JR深谷駅北口を降りると広場には銅像が建ち、市内には生誕地や記念館といったゆかりの場所が点在する。ご当地ゆるキャラの「ふっかちゃん」は2014年ゆるキャラグランプリで2位を獲得したことがある。

(アリシス 長田正)

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