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工藤のフルートと山宮のハープ モーツァルト協奏

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NIKKEI STYLE

日本を代表するフルート奏者の工藤重典氏と、新進気鋭のハープ奏者の山宮るり子さんがこの夏共演した。曲はモーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲」。両楽器とも活躍する曲はありそうであまりない。フルートとハープの相性や持ち味についてベテランと若手が語り合った。

「フルートとハープは相性がいい」と工藤氏は主張する。しかしこの2つの楽器を組み合わせた曲は「はっきり言ってほとんどない」と話す。そこでモーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299」の出番となる。「モーツァルトほどの大作曲家がよくぞ書き残してくれた。我々にとっては全くもって宝なんですよ」。そんな貴重な協奏曲を弾く機会が訪れた。

珍しい楽器の組み合わせによる有名な協奏曲

7月5日、東京オペラシティ(東京・新宿)のリハーサル室。三ツ橋敬子さんの指揮する東京フィルハーモニー交響楽団と工藤氏、山宮さんが集まった。翌6日の東京オペラシティコンサートホールでの本公演「平日の午後のコンサート。」に向けたリハーサルだ。オーケストラが奏でるハ長調の明るい調べに乗って、フルートが優美なメロディーを吹き、ハープがみやびやかなアルペジオ(分散和音)を弾いていく。2つの楽器の音色が溶け合い、軽やかで柔らかい響きが生まれる。

「クラシック音楽をあまり知らない人でもどこかで聴いたことのある曲」と山宮さんは言う。ハープ奏者には、フルートとの組み合わせどころか「ハープのために書かれた曲自体が少ない」との認識があるようだ。このため「みんなが知っている曲をハープで弾けるという醍醐味がこの協奏曲にはある。実際、初めて弾けたときにはとてもうれしかった」と山宮さんは振り返る。

珍しい楽器の組み合わせによる優雅で幸福感に満ちた音楽はどんな経緯から生まれたのだろうか。1778年3~9月、22歳だったモーツァルトは就職活動のためパリに暮らし、4月にこの曲を書いた。パリでの稼ぎは良くなかったといわれ、7月には一緒にいた母を亡くすなど、幸せな滞在だったとは言い難いようだ。こうした中でモーツァルトに「フルートとハープのための協奏曲」の作曲を依頼したのはド・ギーヌ公爵という外交官を務めたフランス貴族だった。

 ド・ギーヌ公爵はアマチュアのフルート奏者で、その令嬢はハープの演奏を得意にしていた。モーツァルトは家庭教師として令嬢に作曲を教えた。この父が娘と共演するために協奏曲の作曲を依頼したのが経緯だ。「ハープとフルートをたしなむだけの公爵家の教養があったからこそ、この協奏曲が生まれた」と工藤氏は指摘する。いずれも当時はやりの最先端の楽器だったようだ。

アマチュア演奏家の依頼による十分難しい曲

さらには典雅な曲調になった背景も興味深い。「貴族の結婚式のために書いた曲。(娘の結婚に向けて)大変幸せな雰囲気が想像できる」と工藤氏は説明する。実際にド・ギーヌ公爵の娘の結婚式で親子がこの曲を演奏したかどうかは定かではないが、「すごく華やかな曲なので、幸せいっぱいの結婚式みたいな行事にふさわしい」。全3楽章が祝典風の雰囲気と幸福感に満ちている。

ただしモーツァルトのド・ギーヌ公爵への感情は複雑だったようだ。「モーツァルトの手紙(上)」(柴田治三郎編訳、岩波文庫)によると、パリからザルツブルクの父に宛てた7月31日付の手紙で、ド・ギーヌ公爵がすでに4カ月も前に「フルートとハープのための協奏曲」を受け取っているにもかかわらず、お金をいまだに支払ってくれていないという苦情を書いている。

アマチュア演奏家からの依頼だったとはいえ、演奏が容易なわけではない。「この協奏曲は十分に難しく十分に長い」と工藤氏は言う。18世紀末当時は「アマチュアとプロの境目が分からなかった。アマチュアでも相当うまい人もいたと思う。コンサートも今と違ってお金を払って聴きに行く形式でもなかったようだ」と語り、貴族のたしなみとしての器楽演奏の水準は高かったとみる。

楽器の仕様も現代とは異なる。ハープが今のダブルアクションという機構になったのは1812年ごろ。それまではシングルアクションという機構だった。「今のダブルアクションのハープはペダルが3段階になっていて、半音を2回変えられる。でも当時のシングルアクションでは半音を1回しか変えられなかった」と山宮さんは説明し、当時のハープ演奏が難しかったことを想像する。

リハーサル後、「3段階あるペダルのうち2段階しか使っていないってことか」と工藤氏が尋ねると、山宮さんは「そうです。当時とは弾き方も異なる」と答えていた。「転調もあるし、あれだけの音階スケールも弾かなくてはいけない。易しい曲とは言えないね」と工藤氏は感心した様子だった。この協奏曲でのハープの難しさはまだある。それは山宮さんが「モーツァルトはピアノで作曲した」と指摘する点から生じている困難だ。

 「ハープの演奏では小指を使わない。でもこの曲は、指をもう1本使えれば楽なのにというフレーズが多い。最初はその指使いを考えるのに苦労した」と山宮さんは語る。そこからモーツァルトがピアノで作曲したことを推察できる。「5本の指で作曲したことが譜読みの際によく分かる」と山宮さん。当時のハープは調律も安定せず、作曲家が好んで取り上げる楽器ではなかったようだ。

現代仕様の楽器で当時の作曲家の魂に迫る

モーツァルトはハープに習熟していたわけでもなさそうだ。そのせいか「この曲以外にハープのためには書いていない」と彼女は指摘する。グラス・ハープという楽器から派生した当時の先進楽器による「グラス・ハーモニカのためのアダージョとロンドハ短調K.617」という作品があり、ハープでも演奏されるが、これも本来のハープのための曲ではない。それだけに「内容が素晴らしく充実している」と工藤氏が称賛する協奏曲は奇跡の傑作といえる。

奇遇とはいえ、両楽器の相性の良さもこの協奏曲を傑作にしている理由だ。「フルートはリード(口にくわえる薄い板)がない楽器なので、大きい音が出ない。でも強さがない分、耳に優しく、心に染み入る音を出せる。ハープもピアノのような打鍵楽器ではないから、指の柔らかい部分で弾く。そうすると互いの楽器が柔らかい音でマッチングする」と工藤氏は響きの秘密を解説する。

今回の公演を指揮した三ツ橋さんは「ハーモニーに関しての感覚がとても重要」と話す。モーツァルトの作品を得意とする指揮者だが、「単にメロディーを追いかけるのではなく、ハーモニーとしての流れと、どこにクライマックスを持っていくかを常に考える」と演奏の秘訣を説明する。

実はフルートも当時と現代では仕様が異なる。今は作曲当時の古楽器による演奏が盛んだ。その中で工藤氏はバッハやラモーなど18世紀以前の古い音楽を現代仕様のフルートで演奏する活動に力を入れている。「私が教わったジャン・ピエール・ランパル先生やオーレル・ニコレ先生もそうやってバッハを吹いていた」と語り、古楽器全盛の時代に一矢報いたい考えだ。

40~50代以上ならば若い頃、ヘルベルト・フォン・カラヤン氏の指揮によるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団など、現代楽器の大オーケストラによるレコードでモーツァルトの交響曲を聴いた人は多いはずだ。「大事なのは(古楽器か現代楽器かではなく)作曲家の魂に迫ること。作曲家が情熱を傾けた作品の根本的なエネルギーやメッセージを今の楽器で追求してもいい」と工藤氏は主張する。モーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲」もまた、現代楽器の演奏家たちが挑むにふさわしい希少な協奏曲である。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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