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生肉と格闘、ハンバーグ責め地獄 うまさ追求への執念男のハンバーグ道(1)

基本の食材しか使わずに、いかにおいしいハンバーグを作るか、一つひとつのパーツを取捨選択し、選んだパーツをみがき抜き、作業を洗練させて、最終的に最高のハンバーグを構築するーー。それが本稿のミッションである。だからソースや調味料で味をごまかすこともしない。塩だけで調味し、焼いただけでおいしいハンバーグを目指すのだ。

おいしかどうかを客観的に判断するのは、実は難しかった。客観的であろうと心がけたが、パラメーターが多すぎるゆえ、最終的には主観で判断するしかない。自分の味覚にしか頼れないので、せめて感性ぐらいはとぎ澄まそうと考えた。

そこで、会食などやむをえない場合を除いて、日常の食事から肉と魚を排除した。肉に対する味覚が敏感になり、ハンバーグのおいしさの優劣をきびしく判断できるようになるかもしれないと考えたのだ。

そのように体を整えたうえで、特に重要な試食は、朝5時に起床し、何も食べない状態で行った。著名なチョコレートのテイスターがそうやって味を判断していると聞き、まねをしたみてたのである。

起床後、白湯を飲んでからハンバーグを焼いて試食する。口がクドいので朝食はみそ汁とご飯だけで済まし、子供たちを学校に送りだしてから、またひたすら試食する。さすがに全部は食べられないので、一口だけ試食したハンバーグはトマトソースで煮込み、家族のためのパスタソースにしたりした。

昼になっても食欲はわかない。しかし、これが仕事である。合間にコーヒーやお茶で口をすすぎながら、試食を再開。夜までハンバーグ以外のものは口にしない。夕食は酢の物などごくさっぱりしたものだけですます。そして、明朝の試食に向けて眠りにつく。そんな生活を3カ月も続けた。

そんな「ハンバーグ地獄」で、ハンバーグの味に対する感度はにぶったに違いない。完成をとぎ澄ますどころか、飽きてしまい、他の人がおいしいというハンバーグもちっともおいしく感じなくなった。

このことが最終的に功を奏した。私はそのとき、日本一ハンバーグにきびしい料理研究家だったに違いない。そこそこのおいしさじゃ、一口で十分という感じ。もうハンバーグなんか見たくもない。だからこそ、最終的に、そんな状態でも思わずガツガツと食べてしまうレシピを見いだすことができたのである。

書籍の執筆中は他の仕事を断るため、金欠状態に陥るのだが、実は今回は前回の『男のパスタ道』よりも食材費はかかっていない。確かに最初はお金がかかった。おいしい肉、つまり高級な肉で作ったほうが、ハンバーグはうまくなるに決まっている。そう思い込んでいたからである。

しかし、実際に研究をスタートすると、かなり早い段階で食材費はぐんと下がった。ハンバーグは原始の時代から現代にいたるまで、リーズナブル(この単語は「安い」と「理屈が通っている」の両方の意味にとってほしい)な料理なのだ。

土屋 敦 著 『男のハンバーグ道』(日本経済新聞出版社、2015年)プロローグ「ハンバーグ地獄の日々」から
土屋 敦(つちや あつし)
ライター 
1969年東京都生まれ。慶応大学経済学部卒業。出版社で週刊誌編集ののち寿退社。京都での主夫生活を経て、中米各国に滞在、ホンジュラスで災害支援NGOを立ち上げる。その後佐渡島で半農生活を送りつつ、情報サイト・オールアバウトの「男の料理」ガイドを務め、雑誌等で書評の執筆を開始。現在は山梨に暮らしながら執筆活動を行うほか、小中学生の教育にも携わる。著書に『なんたって豚の角煮』『男のパスタ道』『男のハンバーグ道』『家飲みを極める』などがある

男のハンバーグ道 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 土屋 敦
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)

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