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生肉と格闘、ハンバーグ責め地獄 うまさ追求への執念 男のハンバーグ道(1)

2018/8/19

肉の選び方、こね方、火の通し方…… 「おいしいハンバーグ」には多様な要素がある=PIXTA

おいしいハンバーグとは何なのか。肉の選び方、こね方、火の通し方……。多様な要素があるだけに、調理法がなかなか定まらない。そんな高難度のテーマに果敢に挑戦。究極の味を求める著者の、果てしない実験の苦行が始まった。日本経済新聞出版社の新書、日経プレミアシリーズ『男のハンバーグ道』から4回にわたって絶品ハンバーグの作り方をお伝えする。

今度はハンバーグだ。

前作の『男のパスタ道』では、ペペロンチーノのレシピを極めるため、パスタをゆでまくった。ほどよい食感と味を求めて、水の量を変え、塩の量を変え、火加減を変え、鍋を変え、ゆで方を変え、ひたすらその弾力を確かめてきた。

当時は「苦行のようだ」と嘆きつつ、試作を重ねていた。しかし、いま思えばなんと楽だったことだろう……。ペペロンチーノとハンバーグでは、実験におけるパラメーター(変数)の数が違いすぎる。ハンバーグはさらに大変だったのである。

どんな流通経路をたどった肉の、どんな部位を使うべきか。合いびきにするとしたら、どんな肉をどんな配合で混ぜるべきか。こねるとき、手をどのように動かすべきか。道具でこねるとしたら、何をどんなふうに使うべきか。どの程度の時間をこね、肉の温度は何度を保つべきか。そして、それらのパラメーターの変化がどういう現象につながり、どんな味の変化をもたらすのか……。一つひとつが論文になりそうだ。

わが家のキッチンで生肉とたわむれつつ、「実験」をくり返しても、正確な結論はいつまでも出ないように思われた。

私の服には牛脂の匂いがしみ込み、今回も試食にかり出された子供たちはとうとうハンバーグに見向きもしなくなった。「子供が大好きな料理」で常に上位にランクインする人気者だというのに。さっきふと見たら、兄妹で仲良く小松菜のおひたしを食べている。ハンバーグ道の追究は、一つの家庭の食卓の風景までも変えてしまったのである。

ゆでたパスタの試食では、たとえば塩によって「硬さがどう変わるか」だけに集中して判断することができた。しかしハンバーグの場合、塩を入れると弾力だけでなく、粘りやうま味やジューシーさなど、さまざまな変化が一気にもたらされる。一つの視点で評価できるシンプルな料理ではないのだ。最終的にはおいしいか、おいしくないか、というあいまいな指標で、総合的に判断するほかなかった。

そのため、スタート時点がかなり手前になった。「おいしいとは何を意味しているのか」から考え始める必要があったわけである。

そもそも、ハンバーグとはどんな料理なのか。歴史を調べた。日本に入ってきた明治~昭和初期のレシピを頼りに、二つのルーツを見つけ出した。研究するうちに、ハンバーグは「ガチの肉料理」ではなく、もっと総合的な料理であることがわかった。こねることで生じる化学的な変化を見れば、その構造はパンに似ている。その味を分析すると、コンソメスープに近い。シンプルなようで多様性をはらんだ料理なのだ。

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