ヤマハVSパナソニック 最新「e-BIKE」を徹底比較
スポーツタイプの電動アシスト自転車「e-BIKE」に注目が集まっている。2018年6月にヤマハ発動機が「YPJ-EC」を発売、さらに7月にはパナソニック サイクルテックが「XU1」を発売した。いずれも電動アシスト付きクロスバイクのモデルだ。2台を試乗してみたので、そのリポートをお届けしよう。
リーズナブルで使いやすいクロスバイクタイプ
e-BIKEはもともと英語圏における電動アシスト自転車の総称だったが、近年ではスポーツタイプの電動アシスト自転車のことを指す。具体的な特徴としては、ロードバイクやクロスバイク、MTBといったスポーツサイクルに準拠したジオメトリー(フレーム各部の寸法)をもつフレームに軽量かつコンパクトなe-BIKE専用の電動アシストユニットを搭載していることが挙げられる。
そのe-BIKEが今年度から日本でも本格的に展開されるようになり、大きな話題となっているのである。なかでも一般車(いわゆるママチャリ)の電動アシスト自転車で大きなシェアをもつヤマハ発動機とパナソニックが発売したe-BIKEは、自転車系メディアのみならず一般メディアでも取り上げられるようになった。
メディアでは見た目の分かりやすさもあってマウンテンバイク(MTB)タイプのモデルが多く取り上げられがちだが、実際に台数が売れるのはクロスバイクタイプの方だと思われる。通勤や買い物などの日常的な状況ではクロスバイクタイプの方が使いやすく、車両価格も安いからだ。
電動アシスト自転車のパイオニアであるヤマハ発動機は、国内向けe-BIKEにおいても他社に先駆けて2015年から販売を行っている。18年にはMTBタイプの「YPJ-XC」、ロードバイクタイプの「YPJ-ER」、クロスバイクタイプの「YPJ-EC」、トレッキングバイクタイプの「YPJ-TC」の4モデルを追加した。今回試乗したYPJ-ECはこの4車でもっともリーズナブルなモデルで価格は26万円となる。
だが、XU1はそのさらに上をいく安い価格設定となっている。フレーム&フロントフォークのがっちりとした造りだけ見ても22万5000円(税抜き)はかなりのバーゲン価格に思える。おまけに小さな握力でも強い制動力を発揮できる油圧式のディスクブレーキ(YPJ-ECは機械式ディスクブレーキを採用)やアルミ製の前後泥よけ、リアキャリア、スタンドも標準装備。生産も国内のパナソニック柏原工場で行われる。
XU1がリーズナブルである理由のひとつはバッテリーの容量だろう。XU1に搭載されるバッテリー容量は8.0AhとYPJ-ECよりもかなり小さい。YPJ-ECがスタンダードモードで100kmを超える走行距離を掲げているのに対し、XU1の走行距離は約57km(AUTOモード)にすぎない。ロングライドは潔く諦め、あくまで日常的な使用をメインに想定したのがXU1のコンセプトといえる。
少し話はそれるが、日本で販売されているe-BIKEの価格というのは欧州に比べ、全体的に安価に設定される傾向にある。すでにe-BIKEがひとつのカテゴリーとして定着している欧州とは異なり、日本はこれから市場を開拓しなければならないからである。現在販売されているe-BIKEの価格はいわゆる戦略価格なのだ。
YPJ-ECは驚くほどバッテリーが減らない
YPJ-ECの走行モードはアシストの利きが強い方からハイモード、スタンダードモード、エコモード、プラスエコモードの4パターンがあるが、実際はほぼハイモードとスタンダードモードしか使わないだろう。試乗もその2モードだけで行った。
YPJ-ECに搭載されるドライブユニットは「PWseries SE」。e-BIKE用に開発されたもので小型かつ軽量で、高ケイデンス(1分間のクランクの回転数)でペダルをこいでもアシストがしっかり利くよう制御されている。スポーツサイクルでは、軽めのギアを使い高ケイデンスでペダルをこぐことによって脚の筋肉の負担を減らす走法が一般的となっている。
同じ速度でも重いギア(低ケイデンス)と軽いギア(高ケイデンス)では前者の方が脚への負担が大きくなり、とくに長距離走行では疲労感に違いがでてくる。ロードバイクなら一分間に75~95回転ぐらいがその目安。PWseries SEは110回転までアシスト可能なパフォーマンスを備えているという。
もっとも電動アシスト自転車では、いきなり重いギアでペダルをこいだとしてもその分アシストが強く働くため、ちゃんと加速できる。ただし、それでは車速の微妙なコントロールが難しく、スポーツサイクルらしからぬ大味な走行感となる。もちろんバッテリーの消費量だって大きい。
YPJ-ECに乗ってとくに印象的なのは自転車としての基本性能の高さである。アシストが強く利くゼロ発進からの加速は確かにパワフルではあるが、それは一瞬のことにすぎない。e-BIKEでも一般的な電動アシスト自転車と同様、速度が上がるほどアシスト力を徐々に減少させ、時速24キロでアシストは0になるよう法律で定められているからだ。だが、YPJ-ECの真価はほとんどアシストが利かなくなる時速20キロより上の速度で発揮される。
自転車は速度が上がるとそれに伴って様々な走行抵抗が自転車を減速させようとする。タイヤの転がり抵抗やハブやチェーンなどの駆動部品による摩擦抵抗、そして空気抵抗である。YPJ-ECはフレームやパーツの精度や剛性、クオリティーが高いため、摩擦抵抗や転がり抵抗が少なく、速度が乗ってしまえばアシストの領域を外れたスピードでも楽々巡航できる。
筆者はスポーツサイクルユーザーにあって中程度の脚力と思われるが、平地では時速26~28キロで楽に巡行できた。これはもちろんアシストの効いていない速度域だ。そのため驚くほどバッテリーは減らない。登り坂ではアシストに頼り切った走り方をしていたにも関わらず、である。ひたすら登り坂が続くようなシチュエーションでない限り、一充電あたりの走行距離はカタログの記載値を大幅に上回ることだろう。
XU1は高い剛性感で乗り心地がいい
対するXU1の走行パターンはHIGHモード、AUTOモード、ECOモードの三種類。試乗はHIGHモードとAUTOモードのみで行った。走り出してすぐに感じるのはフレームとフロントフォークの高い剛性感である。アシストのパワー感はe-BIKEとしては驚くほどのものではないが、「走る、曲がる、止まる」の挙動が常に正確かつ安定している。
剛性の不足した自転車というのは、強くブレーキをかけるとフレームやフォークがわずかにたわんで不安定な挙動を見せたりするが、そうした部分がまったく感じられない。また、足をとめて惰性だけで走ってみるとまるで氷の上でも滑っているかのようにごくスムーズな動きだ。車重がYPJ-ECよりもかなり重い分、振動の収束性に優れ、乗り心地がいい。
700×50CというMTB並に太いタイヤを採用していることも乗り心地の良さにひと役買っている。太いタイヤは接地面積が増えて安定性が高まる半面、抵抗が増して加速も鈍くなる。だがe-BIKEならばその欠点をモーターアシストで補うことができるのでトータルではメリットの方が大きいと思われる。
両モデルの気になる点は
YPJ-ECはそれとは対照的に700×35Cという細身のタイヤを採用する。これは電動アシストを備えない普通のクロスバイクと変わらないサイズだ。加速や敏しょう性ではXU1を上回るが、砂や泥が浮いた路面でのライドはタイヤが一気にグリップを失いそうで神経を使う。普通のクロスバイクよりも車重があるため、タイヤにかかる負担が大きいからだろう。個人的にはYPJ-ECはもうワンサイズ太いタイヤを採用してもよいと思った。
XU1の気になる点としてはペダルにかかる踏力を感知するトルクセンサーが過敏すぎることである。ペダルに足を乗せたまま停車しているとセンサーが反応して勝手に前に進もうとしてしまうのだ。もちろんブレーキを握れば実際に進むことはないが、少々面倒である。停車時は一定以上の踏力がなければアシストが立ち上がらないようにするなど、トルクセンサーのプログラムをアップデートするなどの対応をぜひ望みたいところだ。
XU1とYPJ-ECの大きな違いは巡航速度である。XU1で時速20キロ以上の速度で巡行するのはかなりの体力が必要だ。こちらは基本的に常時アシストを利かせた状態で走る自転車と思った方がいい。筆者の脚力では時速21~22キロが気持ち良く走れる速度域。走行距離の実測値がカタログ値よりも伸びる傾向にあったYPJ-ECとは異なり、XU1は実測値とカタログ値にそれほど大きな違いは出ないだろう。
スポーツ性のYPJ-EC、街乗りに向くXU1
最後にそれぞれの特性をまとめてみよう。YPJ-ECはスポーツサイクルらしさにこだわって作られたe-BIKEである。挙動がシャープで、ついついアシストの利かない速度域までペースを上げて走りたくなる。すでにスポーツサイクルをたしなんでいるユーザーでも操る楽しさが感じられるはずだ。
一方、XU1はそのルックス、リーズナブルな価格も含め、スマートなシティーコミューターというアプローチだ。YPJ-ECよりも巡行速度が遅い半面、安定感が高く、リラックスして走ることができる。といっても、いわゆるママチャリタイプの電動アシスト自転車とは比較にならないほど運動性能は高い。あくまでYPJ-ECと比べたら、という話である。
いずれにしても、自転車でありながらアップダウンのある50~100kmの行程を息も切らさず走れるのはe-BIKEならではの特別な世界である。我が国は国土の多くが山地なだけに、こうした優れたe-BIKEの登場はサイクルシーンに少なからずの変化を与えることだろう。
(ライター 佐藤旅宇)
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