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出雲そば なぜうまいかわからないが、文句なくうまい

ふるさと 食の横道(4) 中海・宍道湖編

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NIKKEI STYLE

なぜ海外旅行に行かないのかとよく聞かれる。答えは簡単だ。日本が面白すぎる。美味しいものが多すぎる。というわけで、今回は宍道湖周辺をうろうろしてみた。

9月4日の日曜日、朝早い便で米子空港に降り立った。最初の目的地は境港。米子市も境港市も鳥取県の西端にあって、美保湾と中海を隔てる弓ケ浜半島の根っこと先端に位置している。

境港といえば水木しげるの漫画「ゲゲゲの鬼太郎」をモチーフにした「水木しげるロード」が有名だ。漫画に登場する妖怪たちの彫刻が道の両側に並び、お土産店の店頭はすべて鬼太郎関連だ。9月に入ってもそこそこの人出があるから、夏休みは家族連れでさぞにぎわったことだろう。

鬼太郎もいいのだが、当方は孫もいるジージ世代だ。それこそ孫でも一緒なら楽しいのだろうが、来てはみたものの暑さが苦になって盛り上がらない。ではなぜ境港に行ったのか。放置すればシャッター商店街になっていただろう町並みが、水木しげるという郷土出身者をモチーフにしたまちづくりをしたことによって、昔と劣らぬにぎわいを取り戻した現場を見たかったのだ。そして見たからもう帰っていいのだ。とはいえ、ちょうどお昼時。目抜き通りから少し離れた店で海鮮丼などを食べた。

夕方、米子のホテルに入った。大きな風呂で汗を流し、駅前の居酒屋「旬門」ののれんをくぐる。どちらかといえば若い人向きの造りなのだが、出てくる料理は見た目も味も大人向け。

白イカの刺し身を注文する。隠岐の島で取れたものだ。白イカの身は半透明で、ねっとりと甘い。甘みが強い刺し身醤油をつけるとまた別種の甘みを味わえる。白イカの標準和名はケンサキイカ。ところが東京では赤イカと呼ばれることが多い。白か赤がどっちかはっきりしてほしい。

続いてサバの刺し身。九州出身なので子どものころからサバは刺し身で食べてきた。だからコリッという食感を想像していたら、こちらは歯がすーっと通る柔らかさ。漁場の違いだろうか。これが旅先で地の物を食べる喜びだ。酒が進む。

「ののこめし」が出て来た。「いただき」とも呼ばれる郷土料理だ。油揚げに生米と刻んだ野菜を詰め、出しで炊く。地酒で膨らんだ胃袋にどんどん入る。私の好物のひとつだ。

翌朝、やんだり降ったりの天気の中、米子から中海に沿って西に向かう。島根県の安来市に入って、道路が中海のすぐそばに出た。車を止めて岸辺に立つと、さざ波の音、風の音、鳥の鳴き声、柿の木のそよぎ。海は汽水なので潮の香りは薄い。大根島の向こうに島根半島の山並みが見える。

車は安来市街に入った。お昼はJR安来駅から徒歩5分のところにある「志ばらく」で出雲そばを食べることにしている。何年か前、安来の町を歩いていて偶然入り、そばの美味さに驚いた店だ。大正12(1923)年築の民家を店にしたもので、奥にカウンターと小上がり、テーブルが並ぶ。

鉄道省に勤めていた前田清さんが戦後の昭和21(1946)年に引き揚げてきて生家を改造し、そばの店を始めた。息子の幸村さんが継ぎ、いまは割烹修業の経験がある3代目の誠さんがそばを打つ。店を切り盛りするのは誠さんの母、つまり2代目夫人の桂子さんだ。

1枚230円の割子を3枚とかき揚げを注文する。そば粉は安来市と雲南市の業者から仕入れている。「粗めの粉と細めの粉をブレンドしているんです。甘皮も少し引き込んでいます。出雲そばの中では色白の方かな」と74歳の桂子さんは、滑舌も良く説明してくれる。

かき揚げにはタマネギ、シイタケ、ニンジン、ナス、サツマイモ、カボチャ、ホタテ、三ツ葉が入る。税込み650円とは思えないほど手が込んでいる。溶いた小麦粉を絡ませる前に、小麦粉を降って混ぜるのだが「事前に打ち粉をした方が、仕上がりがきれいになるんです」と手を動かしながら誠さんが言う。

さあ、かき揚げが出て来た。割子も出来た。そばにはかつお節とネギ。そば湯はポタージュに近い濃さで、何も足さずにそのまま飲むと「これこそがそばの味」と主張する直球の味覚に遭遇する。

割子にそばつゆを注ぐ。わさびをよく溶かしてすする。ああ、この味。この香り。以前来たときと少しも変わらない。かき揚げは固くもなく柔らかくもない。ふんわりとして、出しつゆをしっかりと吸う。箸を休めて桂子さんに聞いた。

「そばのつゆは何で取るのですか?」「煮干しと昆布です」「かつお節は使わない?」「使いません。かつお節はそばの上」

私はそばっ食いではない。だけど、美味いそばはわかる。このそばは文句なく美味い。しかしなぜ美味いのだろうか。どこがどう違うのだろうか。わからないが美味い。

私は知らなかったが、口コミなのか年間を通じて観光客がやって来るのだという。「いまでは地元の人より、観光客が多いくらいですよ」と桂子さんが笑った。

これから松江に行く。おでんを食べるのだ。20年以上前、松江にある食べ物の取材に来た。目的の食べ物は書きようがなくて困っていたら、松江にはおでんの店が多いのに気がついた。そこでアポなしで入ったのが「庄助」という店だった。

宍道湖と中海をつなぐ大橋川のほとり、松江大橋のたもとに店はある。松江の人気店で、おでんは当然として、窓から見える夕焼けに染まっていく川面の景色も味のうちだ。東京ではなかなかお目にかかれないおでん種だけを選んで皿に盛ってもらった。

薄揚げ(いわゆる油揚げ)、サザエ、鶏皮、バイ貝、野焼き(トビウオが入った竹輪)、イカ、卵焼き。季節になるとアカガイ(サルボウガイ)や野ゼリも鍋に入る。

種の豊富さもさることながら、鍋を満たす汁も異色だ。東京ならかつお節、大阪なら昆布が主役になるところだろうが、この店は鶏ガラが主役でかつお節と昆布が脇を固める。だから汁を飲むとこっくりとしていて、味染みもいい。1品100円から300円程度。

午後5時を回ると、常連らしい独り客やグループがやってきて、おでん鍋を囲むカウンターに腰を降ろす。「川が見える窓側のカウンターに座るのは観光客」と店の女性が教えてくれた。宍道湖七珍もいいが、松江のおでんは侮れない。

3日目の朝、宍道湖の西の端まで車を走らせ、道を南にとって雲南市に行って「木次(きすき)乳業」を訪ねる。東京の高級スーパーに行くと木次乳業の「パスチャライズ」を売っている。私は一度買って飲み、すぐにファンになった。

パスチャライズというのはフランスのパスツールが発明した牛乳の低温殺菌法で、セ氏63度で30分、もしくは72度で15秒殺菌する。100度を超す高温で殺菌するより栄養や性質を損ないにくいが、時間がかかるため効率が悪い。しかし木次乳業は昭和53(1978)年に日本で初めてパスチャライズ牛乳を市場に投入した。

要するに生乳に近い、牛乳本来の味わいなのだ。消費期限が短く、値段も割高ではあるけれど、牛乳好きの私は手に入れば買って飲んでいる。

本社兼工場は意外に小さく、見学コースもガラス越しなのでなかなか見通せない。しかし応対してくれた専務の佐藤毅史さんの話は歯切れがよくてわかりやすく、牛乳というものがどんなものかがふに落ちた。

出雲空港で木次乳業のチーズを買った。その夜、家でワインの友となる。

文=野瀬泰申 写真=キッチンミノル

[日経回廊 2016年11月発行号の記事を再構成]

*価格などは取材当時のものです。

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