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鱧づくし、シューマイから鍋まで 酒が進んで仕方ない

ふるさと 食の横道(3) 大分・山国道編

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NIKKEI STYLE

福沢諭吉が生まれた大分県中津市は、周防灘を望む城下町だ。中津に着いて、福岡との県境になっている山国川の河口に行った。川は海に注ぐ直前に2つに分かれ、一方が中津川になる。その中津川に数羽の海鵜がいた。見ていると突如、水中に突進しては何かをくわえて浮き上がる。1羽が長い魚を捕った。「何でしょうね。鱧(ハモ)かな」とカメラをのぞいていたキッチンミノルさんが独りごちた。

中津は鶏の空揚げで有名だ。だが私たちの夕食は別のもの。中津の知られざるごちそうである鱧をいただく。鱧は豊前海で捕れる。地元では昔から食卓に上ってきた。体長1メートルの鱧は3500本の骨を持つという。そのおびただしい骨を細かく切る「骨切り」の技術は中津で確立したという説もあるほどだ。

訪れた8月下旬、街中では「中津名物 はもフェア」の最中だった。市内27の飲食店が工夫を凝らした料理を出す。私たちが訪ねたのは「割烹 嘉乃(よしの)」という庭のある立派な店だった。

入るとカウンターがあって、奥が水槽になっている。そこに横たわっている鱧は優に1メートルはある。鋭い歯を持つどう猛な顔をしている。

主人の小野嘉之さんは別府の温泉旅館で料理長をしていた人で、見るからに料理人の面構えをしている。挨拶を済ませると厨房に消えた。包丁が「1寸26筋」、つまり3センチメートルの身に26回包丁を入れるほどの細かさで骨を断っていく。見事と言わざるを得ない。

テーブルに「はも定食」が並んだ。形も色も様々な皿に、切ったり煮たりした鱧が散らしてあって、メーンはちり鍋。ご飯にかかったふりかけも鱧の身でできている。これで税込み2700円。ありがたい。

女将の小野里美さんは中津の隣町の出身だが「子どものころから家で鱧を食べていました。だいたいちり鍋でした」。里美さんは日本酒党らしく、福岡県の糸島半島で買ってきた地酒の吟醸を出してくれた。吟醸酒で鱧。そう書くと京都か大阪みたいだが、いやいや鱧の産地、中津にこそふさわしい組み合わせだ。

そうこうするうちに「はも会席」が登場した。定食の中身に加えて鱧シューマイや鱧の身が入った茶わん蒸し、鱧の握り寿司などがテーブルを埋める。メーンはやはり鱧ちりだ。酒が進んで仕方がない。料金は税込み4860円。東京なら1万円とか1万5000円とか言われても文句は言えない。

翌朝、旅のナビゲーターをお願いした日田市観光協会事務局長の木下周さんの車で日田を目指した。少し走ると雄大な石橋が見えてきた。8連橋の耶馬渓橋という。別名はオランダ橋。長崎県に多い石積み方法を採っているので、そう呼ばれてきた。大正12(1923)年に完成し、老朽化のため平成11(1999)年に補修された。長さ116メートルと日本一長い石橋だ。

そこから500メートルほど離れたところに「青の洞門」がある。巨大な岩山が川に落ちるこの辺りは遠い昔、「鎖渡(くさりど)」と呼ばれた。川の上に板を渡し、鎖を握って通るしかない難路で、川に落ちる人馬が後を絶たなかった。

越後生まれの旅の僧、禅海は人々の難儀を見かねて、独りノミを持って岩に立ち向かった。やがて地元の人々も加わって30年にわたる苦闘の末に150メートルのトンネル(洞門)を完成させた。ときに宝暦13(1763)年のことだった。菊池寛の小説「恩讐の彼方に」に詳しい。洞門は車が通れるように拡幅されているが、人力で掘ったノミの跡や、明かり取りが往時のままに残っている。

そこからまた車を走らせ英彦山の方向に向かうと、国指定天然記念物の「猿飛甌穴(おうけつ)群」に行き当たる。案内看板にいろいろなことが書いてあるが、地質学は不案内なのでちんぷんかんぷん。わかるのは太古、瀬戸内海と有明海はつながっていて、この一帯は海底だった。やがて隆起して川の水に洗われるうちに、川底に多数の小さな穴があいたということだ。

ここに来るまで、このような光景が広がっていることを知らなかった。緑青を淡く溶かしたような流れの下に、形も様々な穴が連なっている。光の加減で穴のひとつひとつがわずかに色を変えている。川の両側を埋める木々は、秋になると燃え立つ紅葉になるのだろう。観光客はいない。いるのは私たちだけだ。

車は日田に着いた。筑後川の上流、三隈川に面した日田温泉の中の「亀山亭」に旅装を解いて、豆田町に向かう。

幕府直轄領だった日田には永山布政所という代官所が置かれ、九州の外様大名に目を光らせていた。代官所と結びついた豪商たちの資金は「日田金」と呼ばれ、各藩の金融、物流、公共工事などを担った。そんな日田と九州各地は放射線状に伸びる6本の道で結ばれていた。つまり日田は明治維新まで九州の政治・経済の中心地だった。

豆田町は、そんな日田の歴史をいまに伝える町並みだ。豪商の家々もそのまま残っている。重要伝統的建造物群保存地区なのだが、人々がいまも住み暮らしているから、車の通りが絶えない。そこがほかの町並み保存地区とは違うところで、明治の建物から子どもが飛び出してきたり、江戸期のものらしい家にお年寄りが入って行ったりする。老舗の和菓子屋は観光客がお土産を買うところであると同時に、地元の人が進物を求めるところでもある。観光気分に浸りながら、町の暮らしのにおいもかげる。

夕暮れ、宿の前から屋形舟に乗った。テーブルに宿の夕食が並んでいる。そばに控えた宿の女性がビールをつぎ、空いた器を下げてくれる。「そろそろでしょうか」と女性が言ってほどなく、船首にかがり火をさげた鵜飼い舟がやってきた。

鵜匠(うしょう)の装束、飼いならされた鵜の動き、かがり火から川面に舞い散る火花、船頭のさおさばき。観光鵜飼いとわかっていても、どれも風情があって絵になる。屋根の下にちょうちんを並べた屋形船が7艘(そう)、いや8艘か。鵜飼い船はイカリを下ろして並ぶ屋形船に横付けして鵜匠が説明して回る。

「鵜は海鵜です。首回りにたすきにかけたヒモを緩めると鵜は魚を飲み込むので、締めた状態にしていると鵜は魚をくわえて浮いてきます」。そうだったのか。ところで、この鵜はどこから? きのう、中津川の河口に海鵜がいたが。「茨城県の特別な業者から買っています」。短い会話を終えると鵜飼い船はよその屋形船に移って行った。

テーブルにアユの塩焼きがのっている。身を少しつまんで、地酒を口に含んだ。8月下旬の川風が、浴衣の襟から胸をなでた。

文=野瀬泰申 写真=キッチンミノル

[日経回廊 2015年10月発行号の記事を再構成]

*価格などは取材当時のものです。

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