五輪で試される顔認証 入場チェック、誤りは0.3%大会関係者30万人が対象、NECのシステム活用

2018/8/27

スポーツイノベーション

2020年東京五輪・パラリンピック大会組織委員会は、選手や運営スタッフ、報道関係者など大会関係者の会場入場時にNECの顔認証システムを導入することを決めた。30万人以上の顔情報を事前に登録し、本人かどうかを自動的に確認する。採用の決め手になったのは認識率99.7%という高い精度と、0.3秒という照合スピードだ。世界が注目する晴れ舞台でNECの技術力が試される。

顔認証システムは五輪・パラの全43競技会場や選手村、各国のマスコミの拠点となるメインプレスセンターなどに数百台程度が導入される見通し。組織委によると、五輪・パラリンピックですべての大会関係者を対象とした顔認証を実施するのは初めて。

カードを機械にかざすとカメラが顔を読み取り、本人かどうかを自動的に確認する(8月7日午前、東京都千代田区)

大会関係者は顔写真や名前などを登録したICチップ付きADカード(資格認定証)が発行される。関係者用の入場口のチェックポイントで読み取り機にADカードをかざすと、カメラがその人の顔を読み取り、登録された情報を基に同一人物か自動的に照合する。

機械の目で「なりすまし」などの不正入場を防ぐとともに、入場待ちの滞留を避けてスムーズに入場できるようにする。カメラが顔を読み取ってから本人かどうか確認するまで、わずか0.3秒。組織委の実証実験では、入場スピードは警備スタッフがバーコードでADカードの情報を読み込み目視で確認する従来の方法の2.5倍だった。

過去の五輪・パラリンピックでは、一つのパーク内に複数の競技場が集積していることが多かった。その場合、大会関係者は本人確認を一回すませれば、競技場の間を移動できた。それに対し東京大会ではパークを設けておらず、競技場がばらばらに分散している。組織委は、顔認証システムは大会の効率的な運営に威力を発揮するとみている。

ただし一般の観客の入場は顔認証の対象ではなく、これまで通りチケットが必要となる。手荷物などに危険物がないか確認するため、X線検査や金属探知機による検査で対応する。

NECの顔認証は人工知能(AI)を活用してカメラで撮った画像の中から顔を検出した後、目や鼻、口などの位置を特定。登録された顔写真などと特徴を比べる仕組み。骨格の細かな違いなどで双子も見分けられるという。顔が完全に静止していなかったり真正面を向いていなかったりしても、誤認の確率は1000人に数人のレベルだ。

本人であるにもかかわらずシステムが認識できなかった場合は、従来通り目視で確認する。また顔認証のため登録が必要な目や鼻など「特徴点」の情報は個人情報に該当するが、仮にデータが流出してもNECの特定のシステムを利用しないと復元できない仕組みという。

NECは顔以外にも、指紋や手のひら、指の静脈、目の虹彩、声などによる本人確認の技術を持っている。五輪で顔を活用するのは、ADカードの発行の際に顔写真を撮る必要があり、データを効率的に入手できるためという。

NECは東京五輪・パラリンピックでの採用をきっかけに、顔認証の普及を加速させたい考えだ。同社の菅沼正明執行役員は8月7日の記者会見で「これまでは警備での使用が多かったが、エンターテインメント分野の需要が大きい」と述べた。すでにUSJの年間パスポートや人気歌手のコンサートでの入場管理などで活用実績があるという。

[日本経済新聞電子版2018年8月7日付を加筆して再構成]