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旅・風景

まるでファッションショー 火祭り彩る華やかな衣装

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/8/22

ナショナルジオグラフィック日本版

マリア・フェルナンデスさんは、伝統的なファジェラの家の出身ではないが、自分の子どもたちを祭りに参加させるため、ファジャのコミュニティに所属した(PHOTOGRAPH BY LUISA DÖRR)

スペインには世界的に知られる祭りが多い。7月にはけが人が出ることでも知られる「牛追い祭り」、8月末にはトマトを投げ合う「ラ・トマティーナ」がある。ここで紹介するのは春に行われる「バレンシアの火祭り」だ。地区ごとにファジャと呼ばれる精巧な張り子のモニュメントや人形を製作し、祭りの最終日の夜に盛大に燃やされる。ただし、これから紹介する写真は、張り子の人形を燃やす様子ではなく、民族衣装で着飾って祭りに参加する女性たちの姿だ。

火祭りのなかでひときわ存在感を放つのは、各地区のファジャを代表するファジェラと呼ばれる女性たち。ファジェラになるのは簡単なことではない。ほとんどの女性は、先祖代々続くファジェラの家系で、生まれた時からそのキャリアをスタートさせるが、なかには成長してからファジェラになる女性もいる。

10歳のローラちゃんはエチオピアで生まれ、バレンシアに住む一家に引き取られた。2歳の時からファジェラになり、2018年にジュニア・ファジェラ・クイーンに立候補しようと決めた。そのためには、通常の学校の宿題をこなしながら様々な準備が必要で、ストレスもあるが、母親はローラちゃんに協力的だ(PHOTOGRAPH BY LUISA DÖRR)

撮影したのは、ブラジル生まれの写真家ルイ―ザ・ドール氏。夫の家族に会いにスペインのカンブリスを訪れた時、バレンシアの火祭りに出合った。「美しい民族衣装を着たファジェラたちを見て、一瞬で心を奪われました」。それをきっかけに、ファジェラの伝統や歴史、そして現在もその伝統を受け継ぐ社会について、もっとよく知りたいと思ったという。

ファジェラの衣装は特徴的だ。手縫いで丁寧に仕立てられたドレスは、上下ふたつに分かれ、スカートの部分はファルダ、上半身はコルピーニョと呼ばれている。もともとバレンシア地方の稲田で働く女性の服がモデルだというが、スタイルは時とともに変化し、毎年のように新しい布地や模様が取り入れられている。素材は主にレースと絹。靴はコルピーニョとおそろいで、こちらも手作りだ。

ペイネタと呼ばれる大きなくしは、ファジェラのアクセサリーに欠かせない。写真のくしは100年以上前に作られたもので、中央のくしは現代のものと比較するとかなり大きい(PHOTOGRAPH BY LUISA DÖRR)

髪は結い上げて、モニョと呼ばれる3つの団子にまとめられる。「スター・ウォーズ」に登場するレイア姫のように、両耳のすぐ上にひとつずつ、そして3つめは後頭部に作る。その家に代々伝わる3つの黄金のくしを、それぞれのモニョに差す。最後に、チョヤと呼ばれるブローチを胸に着けて完成。ブローチは、イヤリング、ネックレス、ブレスレットとおそろいで、やはり先祖伝来の家宝とされている。

祭りは伝統に従ってとり行われるが、ドール氏は伝統だけでなく多様性にも注目し、様々な年齢や背景を持つファジェラと話をした。なかには、バレンシアに住む家族に養子として引き取られたエチオピア、ベトナム、中国生まれの少女たちもいた。取材を通して、この地を故郷と呼ぶすべての人々を受け入れる、バレンシアのコミュニティの社会的・文化的包容力を伝えようと思った。

祭りの前に、各地区は公的な式典でそれぞれのファジェラ・クイーンを発表する。ファジェラ・クイーンはたすきを受け取ると、祭りのイベントや贈呈式、社交的な集まりへ、地区の代表者として参加する。前任のファジェラ・クイーンは、新クイーンと1日行動を共にして、会場への案内役などを務める(PHOTOGRAPH BY LUISA DÖRR)

「この伝統に、年齢は関係ありません。おばあちゃんから孫娘まで、家族総出で参加し、全員で祝い、一緒に祭りを作り上げます。ファジェラになるということは、家族をひとつにすることなのです」

次ページで、ドール氏が引きつけられた、民族色豊かなファジェラたちの装いを7枚の写真で紹介しよう。

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