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人を励ます音色を バイオリニスト大谷康子が自伝出版

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NIKKEI STYLE

デビューして43年のバイオリニスト大谷康子さんが7月、初の著書を出版した。自演のCDを付属した自叙伝的な本だ。クラシック音楽を高尚なものと捉える風潮に流されず、誰をも楽しませ感動させる演奏家としての人生を書いた。テレビの音楽番組の司会者、大学教授、地域文化振興の旗振り役など活動が多岐にわたるクラシックのエンターテイナーが、本に込めた音楽愛や人生訓を語る。

「幼少時から音楽が人々に大きな影響をもたらすと実感していた。社会に少しでも役立てばという思いで、バイオリンを持って走ってきた」。大谷さんは著書「ヴァイオリニスト 今日も走る!」(KADOKAWA刊)についてこう語り始めた。「自分のことも振り返っているけれど、読んで皆さんが元気になってくれたらうれしい」と自伝にとどまらない点を指摘する。

人を元気にし社会に役立つためのバイオリン

「社会の役に立つ」「人々を元気にさせる」という言葉が大谷さんの話からは頻繁に出てくる。演奏も著書も人々を励ます姿勢に基づいている。演奏技術ばかりを競いがちな今のクラシック音楽界では希少な考え方の持ち主といえる。こうしたエンターテイナーの姿勢の発端は幼少期に遡る。「3歳からバイオリンを始め、8歳のときに米国を演奏旅行した経験が大きかった」と振り返る。

大谷さんは名古屋市で3歳から西崎信二氏にバイオリンを教わった。西崎氏の教え子には諏訪内晶子さんもいて、3歳の諏訪内さんが高校生の大谷さんの演奏会を聴いたエピソードも本に出てくる。西崎氏が所属していたのは「スズキ・メソード(才能教育研究会)」。バイオリニストの鈴木鎮一氏が始めた教育活動だ。音楽を通じて子供の心を豊かにし、自信をつけさせる教育法だった。

1964年、小学2年から3年になる春休みに大谷さんはススキ・メソードの演奏旅行「テン(10)チルドレン」の第1回メンバーに選ばれた。10人は米国のシカゴやボストンを回って弾いた。行く先々で米国人が「素晴らしい」と立ち上がって拍手し、抱きしめてくれた。「子供ながら、音楽でみんなを喜ばせて仲良くなれると実感した」という体験が本の初めのほうに登場する。演奏家の原点だ。

 「人を信じる」「諦めない」「わかってもらえないはずがない」。人生訓のような標語がいくつも掲げられているのもこの本の特徴だ。「私が普段、毎日のように口にする言葉を載せた。それをちょっと読んでもらっただけでも元気が出てくるはず」と話す。「音楽で社会に役立ちたい」と考える著者らしく、実用本としての要素も盛り込んでいる。芸術家の「自伝」には珍しい試みだ。

客席を歩きながら弾く「チャルダッシュ」

「彼女は昔からおちゃめで、周りの人々を和ませる明るい性格」と元日本ビクター社長の伊藤裕太氏は指摘する。伊藤氏は大谷さんと幼なじみで、名古屋の幼稚園と中学校、西崎氏のバイオリン教室に一緒に通った仲だ。「他人を思い、楽しませるサービス精神の旺盛な人」と言う。伊藤氏は大谷さんのコンサートの企画を支えている。そうした公演で彼女はエンターテイナーぶりを発揮する。

アンコールでは、熱情を帯びたバイオリンの音色がどこからともなく鳴り始める。モンティの「チャルダッシュ」というロマ風の曲だ。愛器の1708年製ピエトロ・グァルネリを弾きながら大谷さんがホールの客席後方から登場する。客席の合間をぬって歩きながら、お客さんに直接語りかけるようにして「チャルダッシュ」の超絶技巧のフレーズを弾いていくのが恒例の演出となっている。

自身が本にも書いたように、彼女のアンコールの演出を客へのウケ狙いとして「程度が低い」「音楽で勝負すればいいじゃないか」と論難する向きもあるようだ。しかし彼女はそうした批判に対し「日本が西洋の音楽を高尚な学問として輸入した弊害。専門家ではなく、一般の人がどれだけ感動したかによって、コンサートが本当に満足のいくものだったかどうかが分かる」と反論する。

クラシック音楽を広める活動としてテレビ出演も重ねてきた。テレビ朝日の「題名のない音楽会」への出演は歴代最多という。BSジャパンで毎週土曜日朝8時放送の「おんがく交差点」では春風亭小朝氏と司会を務め、演奏もする。それぞれ「題名のない音楽会」「オーケストラがやって来た」(TBS)の司会者だった黛敏郎氏、山本直純氏といった作曲家と仕事をした。「私は山本先生の本当の姿を知っている」と話し、庶民性とタレント性に隠れた作曲家たちの本質を尊敬する。

 大谷さんがエンターテイナーやタレントとしての姿勢を打ち出せる背景には、揺るぎない演奏技術への自信がある。日々の絶え間ない努力が自信を支える。著書では毎日の習慣として「起床とともにバイオリンを弾く」、優先順位を付けて時間を有効に使うための「今、何をするべきか」という2つの標語も掲げている。いずれも人生訓として「どんな仕事をしている人にも通じる」と話す。

R・シュトラウスが憧れたブルッフの協奏曲

彼女の演奏は「歌うバイオリン」と呼ばれる。情感を込めて歌う旋律線が特徴だ。本の付属CDにはチャイコフスキー「メロディー」、コルンゴルト「雪だるま」など旋律美が際立つ小品6曲を収めた。公演で世界最多の3000回以上弾いたというサラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」をはじめ、情の深い曲でも本領を発揮する。ハクジュホール(東京・渋谷)での10年公演「ヴァイオリン賛歌」は今年11月18日で3回目を数えるが、すでに完売した。

オーケストラとの共演も得意だ。楽団員としてオーケストラで長年弾いた経験が協奏曲で生きる。東京芸術大学の大学院生だった頃から東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団でコンサートマスター(首席第1バイオリン奏者)を務めた。東京交響楽団でもソロ・コンサートマスターとして活躍してきた。最近はウクライナのキエフ国立フィルハーモニー交響楽団とも共演を重ねている。

いま特に練習している曲は、9月にキエフ国立フィルとキエフで共演するブルッフの「バイオリン協奏曲第1番ト短調作品26」。「大好きな協奏曲。第2楽章の途中に出てくる部分は、リヒャルト・シュトラウスの『アルプス交響曲』にも登場する。シュトラウスの憧れの曲だったようだ」。東京芸大での撮影取材で大谷さんはそう言いながら、明るく美しいその箇所を試奏してくれた。

ドイツの作曲家R・シュトラウスは同国最高峰のツークシュピッツェに登った体験をもとに「アルプス交響曲」を作曲した。ブルッフの「バイオリン協奏曲第1番」の第2楽章を原型にした「感動の動機」は頂上の場面などでまさに感動的に出現する。交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」や楽劇「ばらの騎士」でも知られるR・シュトラウスは、大谷さんが溺愛する作曲家だ。

デビュー40周年記念CDにも彼女はR・シュトラウスの「バイオリンソナタ」を収録している。20世紀半ばまで生きた最後のロマン派は、無調や十二音技法など現代音楽の理論を熟知しつつも、サービス精神旺盛で分かりやすい芸術音楽を書き続けたといえる。作家・井上ひさし氏の言葉「むずかしいことをやさしく」を金科玉条とする大谷さんと相性のいい作曲家のようだ。

彼女は著書の最後で「未来の社会のために」と書いている。未来の人々をも励ますために、生まれ変わってもバイオリニストになるつもりだ。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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