2020年東京五輪・パラリンピックのボランティア募集が来月いよいよ始まる。世界中から関係者や観光客がやってくるなかで、12年ロンドン大会では「ゲームズメーカー」と呼ばれたボランティアは今や、大会成功のカギを握る存在だ。条件や活動内容がとかく言われてもいるが、日本にボランティア文化を根付かせる好機でもある。
東京大会組織委員会は9月中旬に「大会ボランティア」8万人の公募を始める。それと別に東京都も観光案内などを担う「都市ボランティア」を3万人募集。競技会場や海外チームのキャンプ地がある自治体も独自に集める予定だ。希望者が参加しやすい環境を整えようと、動き出している大学や企業もある。
「ボランティアは大会成功の立役者。応募を検討頂ければありがたい」。7月末、上智大(東京・千代田)に集まった各地の大学の学生や教職員ら約400人を前に組織委幹部が強く訴えた。
説明を聞いた東京女子大1年の重川響さん(18)は「案内など人と関わる分野で参加したい」と前向きに話す。過去大会でも学生は主力として活躍しており、組織委は9月上旬にかけてこうした説明会を全国13大学で開催。担当者は「熱意のある学生を発掘したい」と意気込む。
文部科学省とスポーツ庁も大会中の行事予定を柔軟に変更するよう、全国の大学などに通知。既に首都大学東京や実践女子大などが授業や試験を大会前に前倒しすると決めており、学生の背中を押す取り組みはさらに広がりそうだ。
ユニホームや食事、交通費は支給
組織委が公募するボランティアは休憩を含めて1日8時間程度、10日以上の活動が基本。応募フォーム提出時に希望の活動分野を選び、ボランティア経験なども記入する。このフォームをもとに組織委が「マッチング」と呼ぶ選考を実施。「合格」すれば、19年2月以降に複数回研修に参加するという流れになる。
活動時のユニホームや食事、期間中の滞在先から会場への交通費は支給される一方、遠方から参加する場合の交通費や宿泊費は自己負担。この点をハードルと感じる人が一定数いるとみられる。
組織委と協定を結ぶ日本財団ボランティアサポートセンターの沢渡一登事務局長は「日本ではボランティアを『困っている人を助けるもの』と捉える人が依然多いのでは」と指摘。「東京大会を機に『スポーツボランティアは自らの楽しみ、成長につながる』という、より前向きなものに変えたい」と力を込める。
同センターは企業や自治体向けに研修を行っており、熱心に取り組む企業の一つがあいおいニッセイ同和損害保険だ。同社は障害者アスリートを多く雇用していることもあり、今夏各地でスポーツボランティアの研修を実施。20年大会に向けてもボランティア休暇を取りやすくしたり、期間中に首都圏の研修所を宿泊先として開放したりすることを検討している。
組織委はボランティア希望の障害者へのサポート体制も整える予定で「年齢や職業、障害の有無に関わらず、多くの人に参加してもらいたい」と強調する。2年後の期間中、ボランティア参加者だけでなく、その活動を目の当たりにした人にも前向きな印象を与えたい――。そんな理想に向け、今後も環境整備や情報発信を進める方針だ。
(鱸正人)
リオ五輪にボランティアとして参加した会社員、竹沢正剛さんのインタビューはこちらから。会社を休みコツについても語っています。