「人に譲るために座る」 優先席を空ける究極の方法マセソン美季さんのパラフレーズ

2018/8/13

マセソンさんのパラフレーズ

困っている人が優先席に座れるとは限らない。写真はイメージ=PIXTA
困っている人が優先席に座れるとは限らない。写真はイメージ=PIXTA

電車の車両に用意された車いす用のスペースは、優先席の前に設置されていることが多い。だから私は、優先席に座る人を観察する機会がよくある。

松葉杖をついている女子高生が乗って来たのに、誰も動こうとしない。居たたまれない気持ちになって、優先席でスマホをいじっている若者たちに「もし妊婦さんとか、内部障害をお持ちの方じゃなかったら席を譲っていただけませんか?」と声をかけた。何も言わずに隣の車両に彼らが消えて行った後、「本当に助かりました」と女子高生は丁寧に頭を下げた。実は、同じような場面に遭遇したことが以前にもある。

職場には、妊娠33週目まで勤め上げた元気すぎる妊婦さんがいた。人並み以上の体力があって、精神力もタフな彼女でさえ妊娠中の電車通勤には苦労していたようだ。突然お腹が張ったり、痛くなったりする。夏のこの時期は、長身の彼女に冷房の風が直撃して体が冷え、つらかったらしい。

それでも座れない。マタニティーマークをつけていても見て見ぬ振りをされ、悲しくなったことは少なくないと言う。どうしても大変な時は、途中下車して駅のホームのベンチで休みながら通勤した。そんな通勤サバイバルを経験したら、妊娠を機に退職する人の気持ちも理解できるようになったそうだ。

お腹が目立つようになってからは声をかけてくれる人も増えたと言うが、体調が安定しなかったり、つわりがひどかったりする妊娠初期は、外見だけでは妊婦かどうかなんてわからない。困っていても自分からは言い出せず、我慢をしている人たちは一体どれ程いるのだろう。

逆説的なアイデアなのだが、いっそ元気な人ほど優先席に座って欲しいと思う。そして困っている人を見かけたら、「いつでも立ちます。あなたのために席をとっておきました!」というような気持ちで席をさっと空ける。いわば「優先席譲り隊」を結成して、率先して座ってもらえないものだろうか。

記録的な猛暑が続き、体力が落ちている人も多いはず。そんな人たちを救う、元気な若者たちの登場を願っている。

マセソン美季
 1973年生まれ。大学1年時に交通事故で車いす生活に。98年長野パラリンピックのアイススレッジ・スピードレースで金メダル3個、銀メダル1個を獲得。カナダのアイススレッジホッケー選手と結婚し、カナダ在住。2016年から日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。

[日本経済新聞朝刊2018年8月9日付]