炊飯器・テレビ…低価格メーカーの高級機、意外な実力
2000年に発売され、累計75万個を販売した炊飯用の土鍋「かまどさん」(長谷園)。その土鍋を使った炊飯器が18年、ついに発売された。コラボには大手家電メーカーもこぞって名乗りを上げたというが、創業200年近い歴史を誇る伊賀焼の窯元の心を射止めたのは、意外な会社だった。機能がシンプルで低価格が売りのジェネリック家電メーカー、シロカだ。
長谷園が大手のオファーを断り続けた理由は、どの会社もIH方式を提案してきたため。高級炊飯器では、強い火力を効率的に引き出せるこの方式を用いるのが常識だ。ただ、IH方式は電磁力を用いるため、土鍋に金属を埋め込む必要がある。これでは伊賀焼の特徴である多孔質が損なわれることから、長谷園は、外側から加熱するローテクな電熱ヒーター方式を望んでいた。
唯一、その条件をのんだのがシロカだった。同社は炊飯器を手がけるのは初めて。ノウハウもなければ、固定観念もなかったことが、逆に功を奏した。
出来上がった炊飯器「かまどさん電気」は、常識外れなものに仕上がった。実勢価格が税込みで8万円を超えるにもかかわらず、保温機能はなし。土鍋では米を直接洗えず、水量の目盛りもない。使い勝手を犠牲にしても、ただただおいしいご飯を炊くことに特化した炊飯器だ。
それでも従来のかまどさんと比べると、炊き上がるまで機械任せにでき、予約炊飯も可能など、メリットは大きい。百貨店など新たな販路も開拓し、発売4カ月で約1万台を売る順調な滑り出しを見せている。
ジェネリックのレッテルを打ち破ろうと挑戦を続けるメーカーは他にもある。これまで液晶テレビを2000万台以上生産してきたオリオン電機だ。ただ、実績の約半分はOEM。残りの自社ブランド製品も、卸に言われるがままの商品企画で、価格で勝負するモデルばかりだった。
これでは中国や韓国のメーカーに勝てないとの危機感から方針を転換したのは、15年に投資ファンドの傘下に入ってから。狙いを定めたのが、24~32型の小型テレビ市場だ。大手メーカーは高価格の大型テレビに開発リソースを集中させており、小さいサイズは手薄。ここなら勝負ができると考えた。
差別化のポイントとして選択したのは、画質ではなく音質。「小型の薄型テレビは、コンパクトに見せるためにスピーカーが背面に追いやられ、音がユーザーにダイレクトに届かない構造になっている」(オリオン電機常務の市川博文氏)。そこで、前面に大型スピーカーを搭載し、オーディオメーカー出身のスタッフが音作りを監修。ハイファイオーディオの技術で、迫力ある音だけでなく聞き取りやすさも特徴の「極音」を17年11月に発売した。
「32型の中心価格帯は3万円弱」(市川氏)という市場環境のなか、当初は税込み4万6800円という価格で勝負。発売から半年以上たった現在でも3万円台半ばを維持している。今後も音質に注目した商品を開発するという。
[日経トレンディ2018年8月号の記事を再構成]
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