【4】密着したポリエステル製のインナー+ゆったりしたシャツ(上着)

平田さんらは、綿100%とポリエステル100%のインナーを用いて、それぞれ皮膚との間にゆとりがあるものと密着したものとで、発汗に伴う深部体温の変化を見る実験を行った[注3]。
その結果、ポリエステルでゆとりのあるときに体温は0.41℃上昇したのに対して、密着したポリエステルでは0.30℃の上昇にとどまった。綿はポリエステルよりも体温が高くなり、ゆとりタイプでは0.49℃、密着タイプでは0.60℃の上昇となった(図3)。
「ゆとりがあるタイプは皮膚の汗をインナーの外の環境へ移動させるまでに一度蒸発させなければならないので時間がかかり、体温が上がりやすくなります。密着しているほうが汗を皮膚から繊維と繊維の隙間に素早く吸収して広げるので、汗が水蒸気となるときに熱が外へ早く逃げることになります」(平田さん)
つまり、発汗を伴うような暑さのときは、体に密着したポリエステルのインナーを着るのがよいということだ。さらに、その上に着るシャツや上着は、空気が入りやすいゆったりしたものにすれば、裾から襟元へ空気が抜ける「煙突効果」も期待でき、体温上昇が抑えられやすいという。
意外に思う人もいるかもしれないが、シャツ1枚より、密着したポリエステルのインナーを着て、その上にシャツ(ゆったりしたもの)を着たほうが快適に過ごせる、と平田さんは言う。インナーを着ていないと、汗をかいてシャツがべったりと肌に張り付く不快さを避けて通れないうえ、流れる無駄な汗(無効発汗)が増えて体温調節の効率が悪くなる。一方、先述した通り、体に密着したポリエステル製のインナーを着ることで、皮膚から出る汗を流れ落ちることなく繊維と繊維の隙間に吸って生地一面に広げ、素早く蒸発させられる。早くから熱放散を促進するので、体温がそれほど上がらず、少ない汗で済むのだ。
【5】機能性インナー(吸水速乾・接触冷感)を利用する
ポリエステルのインナーの中でも、近年は「吸水速乾」「接触冷感」などの機能を持つ機能性インナーが多く出回っており、体温上昇を抑えるのに役立つ。各社で繊維の組み合わせや製法を研究して独自性のある新製品を生み出している。自分の好みやライフスタイルに合った機能性インナーを入手して賢く利用したい。
一般的に、「吸水速乾」(吸汗速乾ともいう)の機能を持つ素材は、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維で作られており、極細繊維や異形断面繊維等を利用して、狭い隙間で生じる毛細管現象によって素早く水分が吸収・拡散されるようにしている。吸水しても綿のように繊維自体に入り込んで膨潤することはないので、速乾性を発揮できる。
「接触冷感」は、繊維が皮膚に触れたときに冷たく感じる感覚のことで、熱伝導率が高い(皮膚から繊維への熱の移動速度が速い)ほど、接触冷感機能が優れているといえる。皮膚と繊維の温度差が大きいほど、冷たく感じられるが、同じ温度になれば熱の移動は生じなくなるので冷たく感じなくなる。
「最近では、メントールを入れることによって、より冷感を感じられるようにした素材もあります。皮膚の温度センサーがメントールを感知することによって、温度は変わらなくても脳は冷たいと感じるのですが、それだけで体温上昇を防ぐのに有効とはいえません」(平田さん)
汗は早いうちから蒸発させるのが正解

過酷な暑さの中で長時間の労働を強いられる建設作業などの現場では、背中に取り付けたファンから風を送り込んで人工的に汗が気化するスピードを上げ、強制換気を行う「ファン付き作業服」も熱中症対策として取り入れられているという。日常でもうちわであおぐなどして風に当たることで、積極的に汗を気化させることを心がけたい。
平田さんによれば、人は汗が蒸発するときの気化熱によって体熱を外に逃がしており、従って、蒸発せず流れ落ちてしまうほどの汗は脱水状態を引き起こすだけで体温調節の効果はなく、無駄な汗(無効発汗)といえる。「かいた汗は早いうちから密着インナーに吸い上げさせてどんどん蒸発させることを目指すべき」と覚えておこう。そのための適切な策をとれば、少しの汗で熱を効率的に放散させながら、つまり体温上昇を抑えながら、暑さの中でも元気に生活することができそうだ。
後編では、「熱を遮る」「圧迫により血液循環・発汗量をコントロール」の2つの工夫についてお伝えする。
[注3]平田耕造ほか.被服による皮膚圧迫が体温調節反応に及ぼす影響.デサントスポーツ科学. 2003;24:3-14.
(ライター 塚越小枝子、図版作成 増田真一)
