ミラ トコット かわいすぎない軽は売れるか?
ダイハツが2018年6月25日に発売した新型軽自動車「ミラ トコット」。22歳の「ちびまる子ちゃん」を女優の吉岡里帆が演じるCMも話題だが、このかわいすぎない軽=ミラ トコットはどこまでウケるのか?
乗ってるアタシもかわいくないとダメ?
つくづくイマドキの女性も大変だなぁと思わされました。新型ダイハツ「ミラ トコット」。子犬が「トコトコッと」走り出す擬音のようであり、「これやっと『トコット』」の口語調をもじったようでもあるプチダジャレ系車名に、なによりも微妙なデザイン。丸目で分かりやすくかわいいスズキ「ラパン」やダイハツ「ミラ ココア」などとは確実に違います。あえてかわいく見せてないデザイン。
思わず小沢が開発陣に「このカタチ、いったいどのあたりを狙ったんですか」と尋ねたところ、影のチーフエンジニアたる商品企画室の西山枝里氏は「ココアも変わらず着実に売れていたのですが、一部に『乗ってるアタシもかわいくないといけないんじゃないか』『最近しんどくなってきた』という方が出てきていました。それで、もうそろそろ等身大の軽もいいのかなと思いまして」と狙いを解説。
この手のキュート系に関しては、女性誌の動向も大いに参考にしているようで「今や10年前のような『CanCam』『non-no』の時代じゃない。宝島社の『リンネル』みたいにシンプルカジュアル系が受けている」そうで、要するに巻き髪に愛され系ファッションのエビちゃん・もえちゃん的なモテ系キャラじゃないものを狙ったようなんですね。
もっとも小沢からしてみると、すでに20年以上前から「ナチュラル系」は人気だった気もしてますが、常々「かわいい」のレベルが女性たちの間で問題になっているのは感じてました。サッカーのロシアW杯で美人観客の「抜き映像」が問題視され、F1グランプリでグリッドガールが廃止されるこの世の中、かわいいの価値において、「かわいすぎる」ものは敬遠されつつあるのかも?
ってなわけで今回のかわいすぎない軽=ミラ トコットはどこまでウケるのか? 小沢コージが勝手にジャッジしてみました。
このロボット顔は媚びてる? 媚びてない?
改めてトコット、問題のエクステリアを見るとなんとも絶妙です。全体に角の取れた軽セダンボディーもさることながら、最大の注目は顔! 特に全車標準のLEDヘッドライトですが、キュート系の象徴たる丸目を採り入れつつタテ型のウインカーと一体化され、かわいくなりすぎないよう絶妙に逃げています。リアも同様にLED標準で「半」丸目。小沢的には半開きのクチと合わせてロボット顔にも見えます。
キーワードは「エフォートレス」。努力しないというより肩肘張らない存在を目指しており、前述西山氏は、同プロジェクトの平井伸明デザイナーにデザイン案を出してもらっては「ちょっと違う」を繰り返したとか。とにかく「自然体か」「自然体でないか」を探り探り、煮詰めていったようで、小沢的にはかなり意外な出来になってます。
ロボット顔もそうですが、全体はビックリするほど水平基調で力強い。特にサイドはドアハンドル高に一直線に入ったプレスラインといい、その下のリブといい、ドイツ車っぽさもあり。こんなテイストが今の女性に響くんですかねぇ? ホントに。
インテリアも同様で、全体に角が取れたデザインですが、かなりシンプル。なにより男性視線で「かわいい!」とはいえないものになってます。おそらく「媚び」であり「子どもっぽさ」を徹底的に排除したのでしょう。そのうえで、女性らしさを突き詰めていったというか。
また車内からの視界を広く取ろうとサイドミラーの位置まで突き詰めたほか、このクラスでありながら珍しくステアリングホイール高を変えられるチルトステアリングを標準装備し、運転席のシートリフターを一部グレードで標準装備。前後席のカーテンシールドエアバッグに関しては全車標準装備してます。
ボディーカラーはまさに狙いの象徴
その媚びてないかわいらしさであり、自然体ぶりは、ボディーカラーにも出ています。ほとんどがストレートな原色ではなく、淡いパステル調で、特にメインカラーのセラミックグリーンメタリックは絶妙。緑とグレーの中間でしかもインパクトは抑えめ。
まさにイマドキのニッポン女性が人に気づかい、目立ちすぎずに趣味の良さを出した感じがうかがえます。かわいらしさの象徴たるピンクのジューシーピンクメタリックですら抑えめ。しかもカタログやWEBイメージではユニークなツートンカラーを前面に出してます。
トコットが狙ったのは見た目だけじゃありません。乗っても使っても自然体で疲れにくいクルマを目指しており、ベースは17年に発表された削ぎ落としベーシックの新型ミラ イース。全高は1500mm台に抑えられ、車重も4WD仕様でさえ800kgを切ってます。
この軽量コンパクト性能でもって、空力デザインにはさほど気を使わずとも最高29.8km/LのJC08モード燃費を達成し、パワートレインは全車52psの直3ノンターボエンジン+CVTでありながらそれなりに走ります。
発進はCVTの常で、多少シャッキリしませんが、加速は自然でそのまま高速まで伸びます。ステアリングはベースのミラ イースより明らかに軽めでいかにも女性向け。それでいて直進性はそれなりにあります。
なによりいいのは一部車両を除き、ダイハツ自慢の最新型「スマートアシストIII」を標準装備することです。これはステレオカメラやソナーセンサーで車両や歩行者、障害物を認識し、時速4kmから警告や自動ブレーキをしてくれるもので、軽自動車ではトップレベルの先進安全機能。
既存のミラ ココアでは備えられなかった機能で、低燃費性能と併せて、トコットのアドバンテージ。今後、足代わりに軽を買う人にとっては一番の注目点でしょう。
トコットは価格的にも「自然体」を狙ったそうで、イマドキ普通に150万円を超えてくる軽ですが、前述の先進安全のスマアシIIIに、パノラマモニター、コーナーセンサーまで標準装備したフル仕様の「G"SA III"」グレードでも130万円を切るほか、スマアシIIIを付けたベーシックな「L"SA III"」は115万円切り。
最近「値段が高い高い」と不満の多い軽ユーザーの声を拾ったもので、不本意でしょうがスマアシIIIを省いた100万円台の「L」グレードまで用意。とはいえほとんど売れないでしょうけど。
これが売れると少し流れが変わるかも?
正直、小沢的には今ひとつピンときてないミラ トコットのデザイン。かわいいのか、かわいくないのかハッキリしろと言いたくなる部分もありますが、聞けば聞くほど絶妙な出来ではありました。丸目ライトやメッキグリルなど、軽のティピカルな媚びる要素をひたすら削っていったようで、イマドキの女性タレントさんを見るような思いもあります。
実際、この子がなんでタレントなの? と思う人も多い今日このごろ。西山氏いわくタレントで言うと「CMでも起用した吉岡里帆さん」だそうで、ちょっとセクシー過ぎる気もしますが、確かにそういう距離感なんでしょう。
イケイケの時代ならクルマもタレントもカッコ良さであり、かわいらしさを一直線に目指したと思うのですが、そうもいかないのが人間社会の常。特に成熟期を迎え、気づかいを重んじる日本では、タレントも軽自動車もかわいすぎてはいけない時代なのです。そういう意味では、つくづく微妙です。
とはいえ意外と男性にも乗れる中性的デザインでもあります。最近、微妙に背の高い両側スライドドアの「ムーヴ キャンバス」などでニッチ商品をうまく当てているダイハツ。もしやコイツも当てるのか? そしたら日本の「かわいい軽」トレンドも少し変わっていくのかもしれない……そう思った今日このごろです。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
[日経トレンディネット 2018年7月26日付の記事を再構成]
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