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座るだけじゃない アートの魅力あふれる椅子たち いつかは欲しい!名作椅子の知っておくべき物語(4)

2018/8/11

チャールズ・レニー・マッキントッシュが1902年に発表した椅子「ヒルハウス」。真っすぐに伸びた長い背もたれが目を引く

動画配信サービス「Paravi(パラビ)」のオリジナル番組『世界の美しい椅子』本編に入りきらなかったエピソードを紹介する最終回は、アート性やメッセージ性が注目される名作椅子を取り上げる。

■座ることよりも重要な使命

椅子に一番に求められることといえば、「(快適に)座れる」ということになるだろう。当たり前のように思えるが、実はこのように考えられるようになったのは、つい100年ほど前のことだ。

産業革命以前といえば、椅子は王族や貴族などのためのもので、権威の象徴であった。それが産業革命によって、ミヒャエル・トーネットの椅子「No.14」に代表されるように庶民の手に渡るようになったが、まだ限定的であった。ちなみに、トーネットの椅子は、家具の機械化、量産化に世界ではじめて成功した椅子といわれている。そうしたなか、20世紀初頭には、座るという行為よりも美的要素が重視された一脚の椅子が発表された。チャールズ・レニー・マッキントッシュの「ヒルハウス」(1902年)である。

出版業を営むスコットランドの富豪のウォルター・M・ブラッキーは、マッキントッシュに自身の別荘の設計を依頼する。その別荘の2階の寝室用にデザインされたのが、ヒルハウスだ。背もたれが140センチもあるのに対し、座面が極端に狭い椅子は、正直に言って座り心地は良くない。それもそのはず、座るための椅子ではないのだ。壁際の衣装棚の間に置かれることを前提とし、靴下をはいたり、衣服をかけたりさえできれば十分で、それよりもオブジェとして空間を美しく演出することが大切なのだ。この時代は、オーダーメイドの椅子がデザインされることがめずらしくなかった。なお、現在はイタリアのカッシーナ社から販売されている。

その後1919年、ドイツ・ワイマールに総合芸術学校のバウハウスが開校すると、手仕事と機械を融合させ、量産化を目指す動きがみられるようになる。金属などの新素材が登場し、椅子の造形、機能の可能性も広がっていく。こうした伝統主義を排して内容、形式、手法の大幅な刷新を企図する運動は「モダニズム」と称され、それを志向する人々は「モダニスト」と呼ばれた。

ル・コルビュジェの傑作「サヴォア邸」。モダニズムの象徴とされる

モダニズムのムーブメントは、建築やデザインの世界では1930年代から活発になるが、代表的な存在が「近代建築の5原則」を提唱し、「住宅は住むための機械」と語ったフランスのル・コルビュジエである。余談だが、東京・上野の国立西洋美術館もコルビュジエの設計による。このモダニズムの流れは、現在まで基本的に変わっていない。椅子であれば、機能的、実用的、量産的であることが優先される。もちろん、美しいに越したことはないけれども。

■既存文化・社会へのメッセージ

それが1960年代後半になると、大量生産、大量消費に対する疑問、環境問題への意識の高まり、フランスの五月革命、チェコのプラハの春など、従来の価値観に対して変革を求めるムーブメントが芽生え始める。いわゆる「カウンターカルチャー」である。アートやデザインはその表現の手段に用いられ、メッセージ性の強い作品が多く生まれた。

ガエターノ・ペッシェが発表した「アップ5&アップ6」は「身動きのとれない女性」を表現

例えば、イタリアのガエターノ・ペッシェの椅子「アップ5&アップ6」(1969年)である。グラマラスな女性のような造形の椅子(アップ5)と、鉄球のように見えるオットマン(アップ6)とはひもで結ばれており、それは「身動きの取れない女性」を表現している。つまり、女性の不自由な立場に対する批判のメッセージが込められていたのである。 家具のなかで椅子がもっとも魅力的なのは、アートとしての側面を持ち合わせているからなのだろう。

萩原健太郎
デザインジャーナリスト。日本文芸家協会会員。1972年生まれ。デザイン、インテリア、北欧などのジャンルの執筆および講演などを中心に活動中。著書に「ストーリーのある50の名作椅子案内」(スペースシャワーネットワーク)、「北欧とコーヒー」(青幻舎)などがある。

[PlusParavi(プラスパラビ) 2018年7月29日付記事を再構成]

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