乳幼児連れでバーベキュー あきさせずおいしい半日旅
子連れ旅行には行きたいけれど、子どもも楽しめるお出かけ先が分からない。そもそも泊まりで出かける余裕がない――。
そんな共働き世代にピッタリなのが、「半日旅」という旅のスタイル。『東京発 半日旅』(ワニブックス)の著者で旅行作家の吉田友和さんは、思い立った瞬間にでも出かけて、半日くらいで帰ってこられる、お手軽で気まぐれな旅を「半日旅」と定義しました。
2歳と0歳の子を連れて半日旅に出かけた筆者一家。神奈川県の秦野戸川公園で子連れバーベキューに挑戦しました。
◇ ◇ ◇
・旅先は子連れで訪れることが可能な場所であること
・午前中に出発すれば、夕食は自宅で取ることができるくらいのゆったりめのスケジュール感であること
・テーマパークなど人が多く集まる場所は基本的には行かないこと
バーベキュー場では、妻が炭火をおこしていた。夫婦2人だったころはどちらかといえば僕が担当だった火おこしだが、子連れバーベキューとなると、手が空いている人間がやって効率化を図るのがベターだろう。
妻はまさに着火したてで、炭の配置を調整していた。テーブルにはバーベキューグリルが備え付けられており、なおかつ炭や着火剤なども現地で買えるため、何かと荷物が増えがちな子連れにとってはありがたい。
さらに手軽に楽しみたい人には、食材も付いた「手ぶらバーベキュー」も可能だ。ただ食いしん坊なわれわれとしては、食材にはこだわりたいところ。今回は自前で調達してきていた。
簡単につまめて、おなかにたまらないものを仕込んでいく
テーブルにはめ込まれたグリルは、最大10人まで対応するほど大きなもの。パッと見、なかなかの存在感である。とはいえ、僕たちは大人2人に2歳児と0歳の赤ちゃんという少人数だから、妻はコンパクトに使いやすく炭を組もうとしていた。
表情は真剣そのもので、鬼気迫るものがある。
「料理はタイミングが命なのよ」
妻が眉間にシワを寄せる。それゆえ、何か作業をしている最中は気が抜けず、ボンヤリしている暇もない、らしい。
「こうしたほうがいいんじゃないの?」などと僕がうっかり口に出そうものなら、ピシャリと言い返されそうなのが目に見えている。ここは静かに見守るのが得策だろう――と意を決したのだが、隣にはおとなしく待っていられない者がいた。
「おなかへったのヨ……」
長女である。テーブルの上に置かれた肉などを前にして、食欲が刺激されたのだろう。彼女は最近、朝ごはんをあまり食べてくれず、そのためかお昼前には「おなかへった」となってしまうパターンが多い。
ともあれ、2歳の娘に忍耐力を求めるのも無理な話だ。これから焼くのだと説明してもらちが明かない。一秒でも早く何か食べさせろと言わんばかりの勢いである。
そんな娘の様子に気付いたのか、妻はクーラーボックスから何やら出してきた。キュウリの浅漬けとトマトのハチミツマリネだ。
「つまみ食いしていいわよ」と言われ、手を出したら、娘も僕もとまらなくなった。トマトは湯むきし、キュウリは軽く叩いて前日から漬けておいたとのことで、いい感じに味が染みている。浅漬けは塩こうじを、ハチミツマリネは白いバルサミコ酢を隠し味に使っているそうで、素朴な味ながらじんわりとおいしい。赤と緑のコントラストもキレイだ。
「肉が焼けるまでに、『おなかすいた、早く食べたい!』ってなると思ったから、仕込んでおいたのよ。簡単につまめて、なおかつあまりおなかにたまらないものを」
なるほど、妻にとっては想定の範囲内というわけだ。
子連れバーベキューは仕込みが大事なのだなあと、改めて思い知らされる。大人だけのバーベキューなら、ビール片手にのんびり作りながら食べながら……という楽しみ方もあるだろう。けれど相手はひとときもジッとしていられない子どもである。しかも、お手伝いを頼もうにも戦力としては心許ない年齢。最低でも、野菜を切っておく程度の準備はしておいたほうがよさそうだ。
炭に火がつくと、妻は手早くいくつかの串とソーセージを並べた。
「すぐに焼けるものから出すからね」
串はミニトマトとマッシュルームのベーコン巻きなど。マッシュルームは笠の内側にチーズを詰めてあるという。それを見て、娘が前のめり気味に言った。
「ソーセージたべたい!」
娘は食に対して貪欲で、あれもこれも食べたがるタイプだ。ただしすぐに飽きることも多いため、今回は手を替え品を替え、色々なメニューを仕込んでおいたとのこと。テンポよく色々な味を差し出すことで魔の2歳児のおなかを満たそうという作戦だ。
バーベキューは外で食べるだけでもおいしいし、シンプルに肉を焼くだけでも満足だが、そこにちょっと仕込みをしておくと、大人も大満足のワンランク上のバーベキューが待っている。
バーべキューと缶詰は相性抜群
ベーコンがジュウジュウ音を立て始めるとともに、妻はまたもいそいそとクーラーボックスから何やら取り出した。一つはコーンの缶詰。蓋をあけてバターを放り込み、軽く塩コショウをふりかける。バーベキューと缶詰は相性がいい。蓋をあけてそのまま火にかけてちょっと味付けするだけで、手が込んだ雰囲気の一品が出来上がるからだ。
それから妻が並べたのはカマンベールチーズだ。周囲をアルミホイルで包み、上部の縁から1センチくらい内側に切り込みを入れて蓋を外すようにあけて、そのまま炭火の脇のほうに置く。しばし置いておくと中のチーズが溶けて、チーズフォンデュができるという算段だ。
さらにもう一品、オリーブオイルと冷凍のエビとにんにくを入れて味付けし、アヒージョを作る。こちらもバーベキューグリルの隅っこに置いておくだけでいつのまにかグツグツと音がして出来上がり。
缶詰もチーズフォンデュもアヒージョもさして手はかからないのに、バーベキューの彩りとして大正解だった。娘はバターの香ばしい香りにやられ、「コーンもっと食べたい!」と、お代わりをしまくっていた。
本格的に焼き肉に突入した後も、野菜や肉、そしてフランスパンを溶けたチーズやアヒージョに浸したりして楽しんだ。塩コショウや焼き肉のタレは万能だけど、そればかりだと単調だ。ちょっと売れ残った感がある焼き鳥も、トロトロのチーズをからめて食べると、急に高級なフランス料理のような装いになるから侮れない。炭火で焼いたカボチャにアヒージョをかけるのもなかなかイケる、という新しい発見もあった。
ほかに今回のヒットだったのがポークスペアリブ。こちらも前日に下ゆでして、醤油と酒、そしてマーマレードに漬け込んでおいたものだ。スペアリブといえば焼くのに時間がかかるイメージだが、下ゆでしてあるからこそ焼き時間も短縮でき、なおかつ骨から肉がホロッと外れやすくなる。
焼きながらも、妻はハケで漬け汁を何度か塗り込んでいた。こうすることでさらに味が染み込み、見た目もテラテラと輝いてくる。そもそも僕にはバーベキューにハケなんて持ってくる発想がなかったので、わが妻ながら、食べ物に対する執念に脱帽してしまった。骨付き肉にガブリと噛み付くと、口の中にジュワッと肉汁と炭火の香りが広がる。これぞバーベキューの醍醐味だ。
「もっとりんご! り・ん・ご!!」
一方で、そのころにはもう肉には飽きてしまっている者がいた。長女である。
「アレは? なのきにあけるの?」
と繰り返し言いながら、網の上に置かれたアルミホイルに熱い視線を送っている。「なのきに」というのは娘が近頃よく使う言い回しで、「何のときに」の誤用である。意味としては「いつ?」と同じ。つまり、「アレは? いつあけるの?」と聞いているわけだ。
そんなふうに彼女がしきりに催促するのは、アルミホイルの中身がりんごだと知っているからだ。そう、デザートは焼きりんごなのだ。りんごをアルミホイルに包んで網の端っこに乗せておくだけで、気付けばトロトロホクホクの一品に仕上がる。これにバターを落とし、大人用にはシナモンをふりかけ、ハフハフとつまむ。いつものりんごと違う食感が新鮮だ。娘もすっかり魅了されたようで、「もっとりんご! り・ん・ご!!」と、絶叫していた。
すっかりおなかいっぱい――なのだが、これで終わらないのが食いしん坊だらけのわが家。妻がニンマリと笑いながら何やら取り出してきた。見ると、マシュマロである。これまたバーベキュー・デザートの定番といえるだろう。
竹串にマシュマロを刺し、炭火の近くにそっと置く。すぐに周囲がほんのりと焦げ始めた。そのままパクッと口に入れると、トロッと熱いマシュマロの甘さが舌にまとわりつく。妻はさらにリッツを取り出し、「これに挟んでもおいしいわよ?」とささやく。なるほど、リッツの塩味とカリッとした食感が、トロトロのマシュマロの甘みと絶妙なコントラストを生み出している。
「マシュマロのサンドイッチ、もう一つ!」
もはやおなかが明らかに前に張り出した娘すら、お代わりを要求する始末だ。
ちなみに、今回はバーベキューの定番である焼きそばは作らなかった。備え付けのグリルには網だけでなく鉄板もあるのだが、使った後は洗って返却しなければならない。「網も鉄板も両方洗うの、面倒くさいじゃん」という妻の一声で、焼きそばはパスになったのだ。その代わり、主食としてフランスパンをアヒージョやチーズフォンデュで食べたり、これまた仕込んでおいたおにぎりを焼きおにぎりにしたり。
結果的にこの選択も当たりだった。バーベキューグリルが大きいうえに、食後に早くも遊びたがる娘を相手しながら網を洗うのは大変だからだ。鉄板を洗わなくていいのは本当にラクである。
さらに今回は食器類もすべて紙皿を使った。エコではないけれど、まだ皿洗いすらできない幼児連れのバーベキューゆえ、手を抜けるところは抜こうと思ったのだ。そのおかげで洗い物はトングや菜箸といった最低限のものだけで済んだ。
「いやあ、まんぷく、まんぷく……」
ごちそうさまをして、川のせせらぎに包まれながらおなかをさすっていると、娘に遊びに行こうと促された。重い腰というか、重いおなかを抱えながら、バーベキュー場から歩いてすぐの遊具エリアへ向かう。食事前にはおっかなびっくり挑戦していたフワフワジャンプで大はしゃぎしている娘を見て、「おいしい食べ物の力は偉大だなあ」としみじみ感じ入ったのだった。
小田急小田原線・渋沢駅から路線バスに乗り換え、終点・大倉で下車すぐ。車で行く場合は東名高速道路 秦野中井I.C.から約10km、約30分
旅行作家。1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行ながら夫婦で世界一周を敢行。2005年より旅行作家として本格的に活動を開始。国内外を旅しながら執筆活動を行い、短期旅行を中心に、ここ数年は"半日旅"にも力を入れている。著書は『3日もあれば海外旅行』『10日もあれば世界一周』(共に光文社新書)、『思い立ったが絶景』(朝日新書)や自身をモデルとしてドラマ化もされた『ハノイ発夜行バス、南下してホーチミン』(幻冬社文庫)など多数。近著は『東京発 半日旅』(ワニブックス)。
[日経DUAL 2018年5月28日付の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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