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記憶の書き換え、マウスで成功 人間はどうする?

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ナショナルジオグラフィック日本版

近い将来、わたしたちは人間の記憶を書き換えられるようになるかもしれない。本当にそこに踏み込むべきなのか。SF映画のように記憶を書き換えられる世界はいつ実現するのかを考えてみたい。

そもそも記憶とは何か

自転車に初めて乗れたときの気持ちを、あなたは覚えているだろうか。初めてキスをしたときや、初めて失恋したときはどうだろう。そうした記憶と感情は、わたしたちの心に長い間残り、蓄積され、わたしたち一人ひとりが形成されるもととなる。一方、深刻なトラウマを経験した場合、恐ろしい記憶は人生を変えてしまうほどの精神疾患の原因ともなりうる。

もし恐ろしい記憶がそれほど強烈な痛みをもたらさないとしたらどうだろう。人間の脳の発達に関する理解が深まりつつある今、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病、アルツハイマーといった疾患で、記憶を書き換える治療法が少しずつ実現に近づいている。

これまでのところ、実験はマウスなどの動物を中心に行われている。科学者らは人間を対象とした試験を視野に入れつつ、一方で、個人の基礎を形作るものの一部を変えることの意味とは何かという倫理的な問題とも向き合っている。

神経科学者は通常、あるひとつの記憶を「記憶痕跡(エングラム)」と呼んでいる。これは、特定の記憶に関係する脳組織の物理的な変化を指す。最近、脳のスキャンによって、記憶痕跡は脳のひとつの領域に孤立しているのではなく、神経組織に広く飛び散るように存在していることがわかった。

「記憶はひとつの場所というよりも、網のようなものだと思われます」と、米ボストン大学の神経科学者でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(協会が支援する研究者)でもあるスティーブ・ラミレス氏は言う。なぜかと言えば、記憶には視覚的、聴覚的、触覚的な要素が含まれており、これらすべての領域の脳細胞から情報がもたらされる、総合的なものだからだ。

現在の科学は、まるで雪上の足跡を探偵が追跡するかのように、記憶が脳内をどのように移動しているかを追跡するところまできている。

米マサチューセッツ工科大学に在学中の2013年、ラミレス氏は研究パートナーのシュー・リュー氏と共に大きな成果を上げた。彼らはマウスの脳内でひとつの記憶痕跡を形成している細胞群を操作し、誤った記憶を作りだすことに成功した。このときの実験では、脳への特別な刺激によって、足に電気刺激が与えられるという恐怖を、そのときにマウスがいた実際の場所ではなく、記憶の中にある別の場所と結びつけて覚えさせた。

マウスの脳は人間の脳ほど発達してはいないが、わたしたちの記憶の仕組みを理解する助けになるとラミレス氏は言う。

「例えて言えば人間の脳は高級車のランボルギーニで、わたしたちは三輪車を使って実験をしているようなものですが、車輪の回り方はどちらも同じです」とラミレス氏は言う。

脳でコピー、ペースト、削除

現在の研究において、ラミレス氏のチームは、ポジティブな記憶とネガティブな記憶はそれぞれ別の細胞群に保管されているのかどうか、またネガティブな記憶をポジティブな記憶で「上書き」できるかどうかを探っている。

ポジティブな楽しい記憶は、オスのマウスをメスのマウスと一緒に1時間、ケージの中に入れておくことによって形成される。一方、ネガティブな記憶は、別のケージで足に短い電気刺激を与えることによって形成される。マウスがそれぞれのケージで体験と刺激を関連付けて覚えたら、次は、そうしたポジティブあるいはネガティブな記憶痕跡と関わる細胞群を、研究者が操作できるような手術をマウスに施す。

この実験によってわかってきたのは、ネガティブなケージの中にいるマウスの脳を刺激してポジティブな記憶を活性化させると、マウスが以前ほど強く恐怖を感じなくなるということだった。この記憶の「再教育」は、マウスの心的外傷を消すのに役立つのではないかと研究者らは考えている。

ただし、そうした元々ある恐怖の記憶が完全に上書きされるのか、それとも抑制されるだけなのかはよくわかっていない。

「ワード文書で例えるなら、記憶を新しいドキュメントとして別に保存したのか、元の文書を上書きしたのかがわからないということです」と、チームの一員であるステファニー・グレラ氏は言う。

カナダ、トロント大学の神経科学者、シーナ・ジョゼリン氏は、これとは別の技術を用いて、マウスから恐怖の記憶を完全に消し去ることに成功した。ジョゼリン氏のチームは、ある記憶痕跡と関連している細胞群を特定した後で、それらの細胞内にあるタンパク質が、マウスが通常は抵抗力を持っているジフテリア毒素の影響を受けやすいようにした。毒素を注入されると、それらの細胞群は死滅し、そのマウスは恐怖を感じなくなった。

「死滅させたのはごくわずかな数の細胞ですが、記憶は事実上、消え去りました」とジョゼリン氏は言う。

人への応用は数十年後か

ラミレス氏もジョゼリン氏も、マウスを使った実験は基礎的なものだと強調しつつも、これが人間の治療に生かされる日はいずれやってくると考えている。

「トラウマ的な記憶はポジティブな情報で書き換えることができます」とラミレス氏は言う。たとえばPTSDやうつ病に苦しむ人々は、記憶を入れ替えて、痛みを伴う思い出に極端に感情的な反応をせずに済むようになるだろう。

ジョゼリン氏は、現在マウスで行われている研究が、いずれは統合失調症やアルツハイマーといった神経疾患の患者の治療に使われることを期待している。

とは言え、患者が近所の病院に歩いて行って、パッと記憶を消してもらえるようなことにはそうすぐにはならないとラミレス氏は言う。

マウスでの実験には、脳に直接ブルーライトを照射するなどの技術が使われている。つまり、マウスの頭蓋骨を切断して神経組織をむき出しにするということだ。こうした技術が人間に使われる見込みは薄いだろう。将来の治療では、人間の皮膚を貫通する赤外線が使われるだろうとラミレス氏は言う。一方のジョゼリン氏は、化学物質を注入あるいは摂取する形が取られる可能性が高いと考えている。両者とも、こうした技術の実現までには数十年はかかるという見通しだ。

技術的に可能でも、残る倫理問題

いつの日か人間の記憶を書き換えられるようになるとして、その治療を受けられるのはどんな人間だろうか。それは、多額の治療費をまかなえる人に限られるだろうか。子供の場合はどうなるだろうか。また、重要な目撃者や被害者が犯罪の記憶を持たなくなることは、司法制度にとって不利益にならないだろうか。

米ニューヨーク大学の生命倫理学者、アーサー・カプラン氏が提示するこうした疑問は、まだ人間の治療に用いるほど技術が成熟していない現在においても、一考する価値があるだろう。

「技術が実用化されるよりもはるか前に、こうした倫理的な疑問について熟考すべきだとわたしは強く信じています」とカプラン氏は言う。

記憶の操作に関して、カプラン氏は、治療を受けることが許可される最低限の条件について、科学者や国会議員が考える必要があると語る。誰もが受けられるようにするのではなく、深刻なPTSDに苦しんでいたり、ほかの治療の効果が上がらなかったりした患者に限るようにすべきだというのが彼の意見だ。

たとえば軍がPTSDに苦しむ退役軍人にこの技術を用いるとしたら、戦場に戻る兵士の記憶を書き換えることは許されるべきだろうか。

神経科学の研究が進むにつれ、こうした倫理的なジレンマについて考える機会も増えると研究者たちは言う。

記憶操作の技術は善でも悪でもない。たとえば水のように、それをどうやって使うかが問題だと、ラミレス氏は考えている。

「水は体を潤すためにも使えるし、水責めの拷問にも使えます。水が善にも悪にも使えるなら、何であっても同じように使えるでしょう」

「わたしはこの技術に完全に反対というわけではありません」とカプラン氏は言う。「ただし研究は、慎重に慎重を重ねながら進めるべきでしょう」

(文 SARAH GIBBENS、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年7月19日付]

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