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蒸留所でほろ酔い気分 地ウイスキーの故郷をめぐる

2018/8/7 日本経済新聞 夕刊

本坊酒造の間近で見学できるウイスキーの蒸留設備は製造期間中には香りなども楽しめる(長野県宮田村)

夏休みの旅が楽しみという人は多いはず。あなたがアルコールがいける口なら、ブームに沸く国産の地ウイスキーの故郷に立ち寄ってみてはいかがだろう。各地の小さな蒸留所が注目され、見学できる施設が増え始めているからだ。土地ごとの趣を感じながら味わうウイスキーはまた格別だ。

◇   ◇   ◇

「白州12年」「響17年」が販売休止――。5月中旬、サントリースピリッツの国産ウイスキーの供給が止まることが大きな話題となった。反響の大きさの背景には国産品の人気の高さがある。そんな流れを受け、地方の小さな蒸留所にも活気が生まれている。

■蒸留釜ながめ食事を楽しむ

JR岡山駅から車で10分ほど走ると姿を現すレストラン「酒工房独歩館」。創業から100年超の歴史を持つ宮下酒造(岡山市)が2017年6月に開業したこのレストランが話題になっている。

秘密はその造りにある。酒工房独歩館にはウイスキーの蒸留所が隣接し、店内から「ポットスチル」と呼ばれるひょうたん型の蒸留釜を眺めることができるのだ。1杯2000円のウイスキーと食事を一緒に楽しめる、ファンにはたまらない空間が広がる。

宮下酒造の独歩館は蒸留設備を眺めながら食事をできる点が人気を呼んでいる(岡山市)

「車で通るたびに気になっていて、一度来てみたかった」と、7月中旬の土曜日に友人と訪れた岡山市在住の主婦(38)は話す。自宅では「響」など国産の定番ウイスキーを飲むことが多いが、蒸留所付きレストランの珍しさにひかれたという。同レストランには近隣だけでなく、フランスや中国など海外からも訪問客がある。

宮下酒造が造る「ジャパニーズシングルモルトウイスキー岡山」は地元の原料にこだわる。岡山県産の大麦や、同県を流れる旭川の伏流水を使う。加えて、製造工程では祖業の日本酒造りで培った低温発酵を採用し、「吟醸ウイスキー」と銘打つ柔らかな味わいを実現した。

ただ、ウイスキー事業に参入したのは7年前と歴史が浅く、生産量はまだ少ない。ウイスキーの提供はレストランと直営店にとどまるため、しばらくは現地で味わうしかないようだ。

場所を移して長野県。鹿児島市の焼酎大手、本坊酒造が1985年に始めた「マルス信州蒸溜所」(長野県宮田村)が有名だ。駒ケ岳が近くにあることもあって、気軽に立ち寄れる蒸留所として人気が高い。

「基本的には自由に見学してもらっている」と蒸留所売店の冨迫英昭担当主任。事前予約はいらない。樽(たる)が並ぶ熟成用の貯蔵庫、製造棟、最後は試飲コーナーという流れを10分ほどの時間で堪能できる。無料で飲める銘柄もあり、有料のものは1杯数百円で楽しめる。

■製造中に体感、香りや熱気

見学の後はウイスキーの試飲も可能だ(長野県宮田村の本坊酒造)

「国産ウイスキーはマイルドで飲みやすい」。7月の平日に見学していた長野県松川町の飲食業の男性(62)も満足した表情。国産ウイスキーが注目される昨今は「半日近く見学していく人もいる」(冨迫さん)とか。残念ながら夏場の今はウイスキー生産は休止中で次の製造は9月初旬からだ。期間中に訪れれば、ウイスキーづくりの雰囲気だけでなく、蒸留釜から漂う香りや熱気を肌で感じることができるだろう。

宮下酒造、本坊酒造以外にも訪れたくなる地方のウイスキー蒸留所は多い。例えば静岡市では新興メーカー、ガイアフローのヒノキでできた蒸留所が今秋から見学を受け付ける予定だ。これらに加え、大手企業の蒸留所の中にはもともと見学可能な施設がある。サントリーは大阪府島本町、キリンビールは静岡県御殿場市の蒸留所で見学を受け付けている。

ウイスキー文化研究所(東京・渋谷)の土屋守代表は「四季のおかげて適度に気候が変化し、水もきれいな日本はウイスキーの生産や熟成に適している」と話す。そして「蒸留釜の造形美を見るだけでも貴重な体験になる」と蒸留所の公開を評価する。ウイスキーを育む土地の雰囲気を味わうだけでも楽しいだろう。ただし、ちょっと一杯を楽しめる施設だけに、現地でレンタカーなど車を利用する場合は“絶対飲まない”運転者を決める配慮をお忘れなく。

(企業報道部 湯前宗太郎)

[日本経済新聞夕刊2018年7月28日付]

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