空港やホテルでついウトウト… 旅人のための椅子たちいつかは欲しい! 「名作椅子」の知っておくべき物語(3)

すっぽりとからだを包み込んでくれて自分だけの時間を過ごせる椅子「エッグ」
すっぽりとからだを包み込んでくれて自分だけの時間を過ごせる椅子「エッグ」

動画配信サービス「「Paravi(パラビ)」のオリジナル番組『世界の美しい椅子』本編に入りきらなかったエピソードを紹介する3回目は、空港やホテルなど旅人を迎える椅子を取り上げる。

ステンレスフレームにレザーを張った「PK22」

はじめての北欧となったデンマーク・コペンハーゲンの国際空港に降り立ったときのこと。到着口を出ると、ガラス張りの建物のなかは高緯度の北欧ならではのやわらかな光に包まれ、目の前にはポール・ケアホルムの名作椅子「PK22」が並んでいた。ステンレススチールのフレームにレザーを張ったシャープで緊張感のある意匠は、パブリックなスペースにふさわしく、また、あらためてデンマークのデザインのレベルの高さを実感した瞬間だった。

それからしばらくたってから、コペンハーゲン中央駅からほど近いSASロイヤルホテル(現ラディソン・コレクション・ロイヤルホテル、1960年完成)を訪れた。このホテルの設計を手がけたのは、20世紀のデンマークの巨匠、アルネ・ヤコブセンである。さらに彼は、家具から照明器具、テキスタイル、建具などを手がけている。完璧主義者と称されたヤコブセンの真骨頂といえるだろう。

「エッグ」より小ぶりな「スワン」。ホテルのロビーでは、旅仲間とプランの相談もはずむ

ロビーに足を踏み入れると、昼間の喧騒から遮断された、落ち着きのある空間が広がっていた。すぐにそこに置かれた存在感のある2種類の美しい椅子に気づいた。ひとつが「スワン」、もうひとつが「エッグ」という名前の椅子である。スワンはエッグに比べると小ぶりで、旅の仲間とこれからのプランを相談したりするのに最適な椅子だ。一方のエッグは身体をすっぽりと包み込んでくれるような、名前の通り、卵形の曲線を描く椅子だ。こちらは、長旅の疲れを癒したり、考え事をしたり、待ち人が来るのを待ったりと、一人の世界に浸りたいときに向いている。そのうち、ウトウトしてしまうこともしばしばだ。

籐を材料に、ていねいに編み込んで形作られた幅広の「籐丸椅子」

ホテルのためにデザインされたといえば、日本にも誇るべき椅子がある。SASロイヤルホテルと同じ1960年に開業したホテルニュージャパンのラウンジのためにデザインされた「籐丸椅子」だ。籐(とう)をていねいに編み込んだ幅広の椅子は、大柄な外国人の身体もしっかりと受け止めることができる。剣持勇デザインのこの椅子は、日本の家具としてはじめてニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションに選定された椅子としても知られる。

エッグしかり、籐丸椅子しかり、ホテルで使われる椅子としての機能性、実用性を持ちながら、デンマークおよび日本のデザインのアンバサダーとしての役割を果たした有名な椅子なのだ。

萩原健太郎
デザインジャーナリスト。日本文芸家協会会員。1972年生まれ。デザイン、インテリア、北欧などのジャンルの執筆および講演などを中心に活動中。著書に「ストーリーのある50の名作椅子案内」(スペースシャワーネットワーク)、「北欧とコーヒー」(青幻舎)などがある。

[PlusParavi(プラスパラビ) 2018年7月21日付記事を再構成]

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