進行していないポリープは大腸がんリスク低い 米研究
大腸内視鏡検査で、がん化の可能性があるポリープ(腺腫)が見つかった人のうち、直径1cm未満で進行していないタイプの腺腫であった人の大腸がん発症リスクは、腺腫がなかった人と同程度だった――。そんな研究結果が、このほど米国で報告されました。
ポリープへの対応は医療機関によってまちまち
大腸内視鏡検査を受けて、がん化の可能性があるポリープ(腺腫)が見つかると、その時点で切除し、生検[注1]が行われる場合もありますし、経過観察となる場合もあります。現時点では医療機関によって、判断や対応は異なるのが現状です。
大腸の表面にある粘膜の一部が隆起してできたイボのようなものを、大腸ポリープという。大腸ポリープは、その構造から腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープに分けられ、腫瘍性ポリープはさらに、腺腫とがんに分けられる。腺腫は良性腫瘍だが、一部は悪性化してがん(悪性腫瘍)になる可能性がある。
なお、大腸がんは、腺腫が悪性化してがんになる場合と、腺腫の状態を経ずに一気にがんになる場合がある。
(参考:日本消化器病学会「大腸ポリープガイドQ&A」)
腫瘍性ポリープの中で、最も多く見られるのが腺腫です。腺腫は、見つかった段階で直径が大きいほどがん化のリスクが高いため、日本消化器病学会の「大腸ポリープ診療ガイドライン2014」は、「直径6mm以上なら内視鏡で摘除することを提案する」としています。ただし、これを支持する確かな研究結果(エビデンス)は不足しており、エビデンスレベルはAからDまでの4段階のうちのC=「低い」で、推奨の強さは「弱い」になっています。
[注1] 病気が疑われる患部の組織の一部を切り取り、顕微鏡などで詳しく調べる検査
さらに同ガイドラインは、直径5mm以下の腺腫の扱いについて、「隆起性の病変には経過観察を提案する」としていますが、こちらもエビデンスレベルはC=「低い」で、推奨の強さも「弱い」です。ゆえに、実際には、医療機関ごとに対応を決めている状況にあります。
世界的にも、内視鏡検査で検出される腺腫のサイズや組織学的特徴と、長期的な大腸がん発症リスクの関係は明確になっていませんでした。そこで、米ピッツバーグ大学のBenjamin Click氏らは、米国で行われた大規模無作為化(ランダム化)試験に参加し、大腸内視鏡検査を受けた1万5935人のその後を追跡し、検査時点での腺腫の有無と大腸がん発症の関係を調べました。
「進行していない腺腫」の大腸がん発症率は「腺腫なし」と同程度
対象となった人たちは、大腸内視鏡検査を受けた時点では大腸がんではありませんでした。年齢の中央値は64歳で、男性が全体の約6割を占めていました。
米国のガイドラインを利用し、内視鏡検査の結果に基づいて、患者を以下の3グループに分類しました。
(1)進行した腺腫(18.1%)
「直径が1cm以上」「高度異型腺腫」「乳頭状腺腫」「絨毛腺腫」のいずれかに該当する腺腫
(2)進行していない腺腫(31.8%)
直径が1cm未満で、上記のような組織学的特徴がない腺腫
(3)腺腫なし(50.1%)
それらの人々の追跡データを利用して、検査から15年間の大腸がんの発症と、大腸がんによる死亡のリスクを推定し、比較したところ、以下のような結果になりました。
すなわち、進行した腺腫が見つかったグループでは、その後の大腸がん発症リスクと死亡リスクは高く、腺腫がなかったグループとの間に有意差(統計学的に意味のある差)が見られた一方で、進行していない腺腫が見つかったグループのそれらのリスクは、腺腫なしグループとの間に有意差が認められませんでした。
論文は、JAMA誌2018年5月15日号に掲載されています[注2]。
[注2] Click B, et al. JAMA. 2018 May 15;319(19):2021-2031. doi: 10.1001/jama.2018.5809.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday2018年7月18日付記事を再構成]
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