仕事と遊びの境目薄く 創造性高めるじぶん働き方改革
働き方改革のコンサルティングを行っている池田千恵さんは、「ワークライフバランス」の本当の意味を「仕事と遊びを、どちらも同じ土俵に上げて、同じ視線で考えることで、それでこそ、仕事にも遊びにも創造力が発揮でき、人生が楽しくなること」と指摘します。遊びがそのまま仕事になる人・ならない人の違いについて、池田さんと一緒に考えてみます。
機械が本格的に私たちの仕事を奪いにくる?
ホワイトカラーの間接業務を自動化する技術と、それを利用した業務改革の手法はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と呼ばれ、近年注目が集まっているそうです。RPAにより時間がかかっている作業から私たちは解放され、今まで費やしていたムリ・ムラ・ムダ時間が減るため、創造性があることに多くの時間を費やすことができるようになるといわれています。
今後どんどん面倒臭いことから解放されるんだ! と思うと「さて、何をしようかな?」とワクワクしてくる人もいる一方で、そういった状況に不安を持つ人のほうが今は大半かもしれません。私も前職でパワーポイントでの資料作成時間を劇的に短縮化するソフトが導入された時、自分がラクになるというほっとした気持ちよりも、「自分の仕事が機械に取って代わられる」「クビになるのでは?」という不安のほうが勝り、「今のままの仕事の仕方ではダメだ」と強烈な危機感を感じたことを、ついこの前のことのように覚えています。
先日転職したばかりの友人とランチをする機会がありました。転職先の会社は最先端の働き方を実践しているそうで、結果さえ出していれば出社する必要はなし、何時間働いてもよし、海外でリフレッシュしながら働いてもいいし、その場合は渡航費まで出してくれるという夢のような会社だそうです。
しかし「なんでもあり」ほど難しい仕事はありません。例えば私は最近「なんでもいいから面白い講演をしてほしい」というざっくりした講演依頼をもらい、さてどうしたものかとぼうぜんとしました。「なんでもいい」が一番困るのです。自由には、どこまで何をどのようにやるかをすべて自分で考え、結果も引き受ける責任が重くのしかかるもの。与えられた役割の中で一生懸命成果を出す今までの仕事とは全く違う頭の使い方が必要となります。
友人の会社はゆくゆくは「正社員」という枠も取り払い、一人ひとりが会社と個人事業主として契約し、プロジェクトベースで働くようにする計画だそうです。彼女は一部上場の老舗大企業からの転職組ということもあり、仕事の仕方があまりにも今までと異なるため、楽しいながらも時々不安になるそうです。
「何時間働けばこれだけの成果がある」と分かるような単純作業はRPAに任せるようになれば、今後は一人ひとりの創造性が肝となります。作業ではなくビジョンを描き、実行に移すといったような、経営者や個人事業主的な視点が今後ますます求められるようになるでしょう。そこで今回は、未来に備えた新しい働き方に向け、今どのような準備をしておけばよいかについて述べます。
今後「仕事と遊び」の境目が曖昧になる
私は仕事柄、経営者や個人事業主など、自分の責任で仕事をつくり出していく方と接する機会が多いですが、彼/彼女らに共通するのは「仕事と遊びの境目が薄い」ということです。「今はプライベート」「今は仕事モード」と、頭を切り替えるという思考をそもそも持たないため、休みの日に公園で子どもと遊んだり、話題になっているニュースを見たりしている時でも新サービスを思いつきますし、仕事中もこのプロジェクトをどう遊ぶか? どうしたらワクワクできるか? という視点で考える人が多いです。
与えられた枠での仕事に慣れ親しんでいるうちは、このような働き方は理解できないかもしれません。「ずっと仕事のことを考えていて頭が切り替わらないなんて息が詰まる」と思ってしまいがちです。しかし、完全にOFFにするのではなく、ずっと緩いONモードになっているからこそ、卓越したアイデアが浮かぶものです。皆さんも心当たりはありませんか?「新しいアイデアを考えるぞ」と机にかじりついてずっとうなっていても一切浮かばないのに、旅行中に温泉に入ってぼーっとしていたらよいアイデアが浮かんだ、なんてことが。
もともとスポーツの世界でよく使われる言葉で「アクティブレスト」というものがあります。スポーツの後に休養する際、体を一切動かさずに数日間休んでしまうよりは、毎日体を軽く動かしたほうがかえって疲労回復につながるという考え方です。ここから派生して、疲れたからといって家でごろごろして週末を過ごすよりは、土日も外に出て活動的に過ごしたほうがかえってリフレッシュできる、という意味で使われることもあります。
私は、経営者視点で創造的な仕事をしている人は、プライベートにおいても「アクティブレスト」モードなのではないかと思います。
働き方改革とセットで語られることの多い「ワークライフバランス」は、その言葉のイメージから「仕事か・プライベートか」の二元論で語られることが多いのですが、彼ら/彼女らはきっちりどちらかに分けるという考えをそもそも持っていないのです。
私は「ワークライフバランス」の本当の意味とは「仕事と遊びを、どちらも同じ土俵に上げて、同じ視線で考える。それでこそ、仕事にも遊びにも創造力が発揮でき、人生が楽しくなる」ということではないかと思っています。ワークとライフを同じ土俵に上げ、相乗効果を図るという意味では、「ワークライフハーモニー」や「ワークライフブレンド」と言ったほうがしっくりくるのかもしれません。RPAに面倒な仕事を任せておけるようになる時代になれば、むしろ仕事自体をエンタメのように楽しんでいくスキルこそが必要になってくるのではないでしょうか。
会社の資源で遊んでみよう
とはいえ、いきなり「仕事を遊びに、遊びを仕事に」と言われても、どこからどう始めたらよいか分からない、という方も多いことでしょう。私が提案する最初の一歩は、自分の完全な趣味だと思っているものを、会社の資源を使ってどうすれば実現できるか? という視点で物事を見てみることです。
例えば、あなたに憧れの人がいたとします。その人は本を書いたり講演をしたりしていて、あなたはプライベートの時間を使って憧れの人の講演に参加しているとしましょう。
今はプライベートの時間を割いているこの活動を「憧れの人を講演という名目で会社に呼ぶ」ために、今の会社のリソースを使えないか? という視点で考えてみるのです。会社にも、憧れの人にもトクになるかたちで企画ができたら楽しいと思いませんか?
それに、あなたがただ「ファンです!」といって近づいていっても憧れの人と親しくなれる可能性は低いですが、「講師としてわが社で講演していただきたい」というアプローチなら、取引先として打ち合わせにも同行でき、もしかしたら会食だってできるかもしれません。
このように、自分にとってワクワクして、勝手にいろいろ企画が浮かんでしまうようなことをあれこれ考えてみるのです。最初は小さなことかもしれないし、ただの妄想に終わるかもしれませんが、こういったチャレンジから「仕事を遊びに、遊びを仕事に」のアイデアを生む土壌は耕されていくものなのです。
今回のまとめ
今回の話をまとめると、次のようになります。
●作業ではなくビジョンを描き、実行に移すといったような、経営者や個人事業主的な視点が今後ますます求められるようになる
●いきなり「創造性を持て」と言われて戸惑わないためにも、「仕事が遊び、遊びが仕事」の状態に慣れていく必要がある
●「仕事が遊び、遊びが仕事」の状態に慣れるには、自分の趣味を仕事を使ってかなえる練習をしていこう
イノベーションは切羽詰まって困った中から生まれるというよりは「こうなったらいいのに!」というワクワクから生まれると私は考えています。せっかく今ある会社という環境を使って、自分のやりたいことを実現してやろう! そう思ったら日々の仕事にもより張り合いがでてくるのではないでしょうか。あなたのチャレンジを応援しています!
株式会社 朝6時 代表取締役。慶應義塾大学総合政策学部卒業。外食企業、外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。企業や自治体の朝イチ仕事改善、生産性向上の仕組みを構築している他、「働き方改革プロジェクト」「女性活躍推進プロジェクト」など、ミドルマネジメント戦力化のためのコンサルティングや研修を行っている。「絶対! 伝わる図解」(朝日新聞出版)、「朝活手帳」(ディスカヴァー21)など著書多数。
[nikkei WOMAN Online 2018年6月6日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。