ドローン物流が本番 目視外飛行の新ルールが後押し
ドローンの利用が新段階に入ろうとしています。空撮や測量などの利用に加えて、本命とされる荷物輸送の取り組みが次々に登場。秋には本格的なドローン物流の実証プロジェクトも始まる見通しです。操縦者が目視で確認できない場所でもドローンを飛ばせる新ルールもまとまり、物流ビジネスを進める条件が整ってきました。
楽天とローソンは共同で福島県南相馬市で、ドローン配送と車両による移動販売を組み合わせた事業を始めました。温度管理の問題で移動販売車両では取り扱えない「からあげクン」などの商品を、コンビニ店舗から移動販売車両までドローンで約7分で輸送します。
長野県伊那市では、今年から日本郵便、NTTドコモなどが参加して、郵便局と約2キロ離れた道の駅に、ドローンの発着ポートを設け、注文票と商品をやり取りする実証試験を進めています。ドローンは主として湖上空のルートを飛行します。
個人宅へのドローン配送の試みも始まりました。静岡県藤枝市は楽天と協力して、中山間地域にある住宅を対象に、日用品や弁当などをドローンで届ける試みを今年始めました。買い物の不便さを解消するとともに、災害時の緊急物資輸送にドローンが使えるかどうかを検証するのが目的です。
このほか高松市のベンチャー企業かもめやが瀬戸内海の離島を対象に進めている無人物流ルート作りなど、全国で十数件の事業が始まっています。
ドローン物流をめぐっては国土交通省が3月に、ドローン運行のルールとなる「目視外飛行に関する要件」をまとめました。これまでは操縦者の目視外の場所でドローンを飛ばすときには、飛行経路を見渡せる「補助者」をおいて、飛行航路への人の立ち入りや、ヘリなど有人機との接近、気象状況などを人の目で監視して安全を確保することにしていました。
新ルールでは、ドローンの飛行場所を当面第三者が立ち入る可能性が低い場所に限定し、航空機が通常飛行しない150メートル未満に制限した上で、補助者の目視に代わるカメラなどの機器を設置して、安全状況を監視することなどを定めました。
今後は飛行距離を伸ばしたり、ルートを柔軟に定めたりできるようになると期待されています。国交省は新ルールに基づいた本格的なドローン物流の実用化に向け、検証実験への参加を募集しています。
国はドローン利用を段階的に高度化するロードマップを定めています。それによると2020年以降は都市部など人口密集地域でもドローンを飛ばせるようになる見通しです。
大木孝・三菱総合研究所主任研究員「ルールづくりや実験進むも、普及にはなお時間」
国内外のドローン利用の状況に詳しい三菱総合研究所の大木孝・主任研究員に、ドローンを活用した物流事業の普及の見通しや課題について聞きました。
――海外でもドローンを活用した物流事業は活発ですか。
「米アマゾン・ドット・コムが進めているドローン配送実験などがよく知られているが、他にもスイス・チューリヒで、独ダイムラーが電子商取引(EC)のスタートアップやドローンメーカーと協力してユニークな宅配実験を行っている。荷物を抱えたドローンが、待機している配送車の屋根に着陸し、配送車が顧客の元に配送する。車両とドローンを組み合わせた取り組みだ」
――海外と比べ、ドローン物流で日本は後れを取っているのでしょうか。
「必ずしも遅れているわけではない。日本でも楽天とローソンによる、ドローンと移動販売車両を組み合わせた販売や、地域ベンチャーのかもめや(高松市)による、瀬戸内海の離島を対象にした無人物流網作りなど、様々な取り組みが始まっている。同じドローン利用でも、先行した空撮や測量などに比べて、物流はまだ日が浅い。安全性確保など規制面の課題が多く、どの国もそれを段階的にクリアしながら進もうとしている」
――国土交通省が今回、操縦者が目視で確認できない場所でもドローンを飛ばすためのルールを作りました。
「ドローン物流が本格的するための重要なステップだ。これまで各地のドローン物流の取り組みでは、飛行状況や周囲の状況を監視する補助者を置くことで安全を確保することが義務付けられていた。新ルールでは補助者なしでの飛行が可能になりコスト削減にもつながる。新ルールを踏まえて新たなドローン物流事業を計画しているところもあると聞いている。国も新ルールに基づくパイロット事業を計画しており、手を挙げる企業・自治体も出てくるだろう」
「ただ、新ルールに基づくドローン物流事業が定着するには一定の時間がかかるかもしれない。新しいルールでは、機体や地上にカメラを設置して、第三者の立ち入りやドクターヘリなど有人機を監視することになっている。立ち入り管理区域について近隣住民に周知することも定めている。ドローンからの監視映像を操縦者に確実に送るための通信インフラも必要だ。新ルールに沿った様々な対策を、実効性を確認しながら取り入れることになるだろう」
――ドローン物流はどのようなステップを踏んで進んでいくでしょうか。
「最終的な形は、ドローンによる家庭などへの宅配をすること。その前段階では、ドローンが発着するポートを設けて、拠点間の輸送をするという形になる。日本で最初に始まるのはこうした過疎地域での拠点間のドローン輸送だ。これが次第に遠距離輸送や人口の多い地域でもできるようになっていく」
――ドローン利活用・技術開発に関する国のロードマップでは、2020年過ぎには都市を含む地域で多数のドローンが飛行するとしています。どのような課題がありますか。
「ドローンが人口密集地の上空を飛ぶため、墜落しないよう十分な信頼性を確保するとともに、万一落ちたときの危険を軽減する対策も必要となる。多数のドローンが飛ぶ時代には、運航管理の仕組み作りも重要だ。飛んでいるドローンを離陸から着陸まで管理し、相互に接近したり接触したりしないようにする。またドローンがテロなど犯罪に使われているものでないことを確認するため、ドローンが識別信号を出せるようにすることも検討されるだろう」
(編集委員 吉川和輝)
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