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子供も引き込むクラシック 三ツ橋敬子指揮東京フィル

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指揮者の三ツ橋敬子さんが高齢者や子供にクラシック音楽を広める活動を続けている。中心演目は誰もが一度は聴いたことのある曲。夏休みシーズンの今、次世代の音楽ファンを育てるための子供向け演奏会にも力を注ぐ。超名曲をいかに新鮮に聴かせるか。東京フィルハーモニー交響楽団を指揮した7月の「平日の午後のコンサート。」を通じてクラシック入門のための公演術を探った。

「『結婚行進曲』は有名じゃないところを頑張りたい」。7月5日、東京フィルとのリハーサルで、三ツ橋さんは指揮台から楽団員に向かってこう方針を語りかけた。メンデルスゾーンの劇音楽「真夏の夜の夢」の「結婚行進曲」は結婚式で頻繁にかかる超名曲。タタタターンというリズムで始まるこの曲を知らない人はほとんどいない。しかし「有名ではない中間部がはさまっている。そこから音楽が展開し、またあの有名なメロディーが出てくるまでの物語をみんなで共有したい」と三ツ橋さんは話す。

名曲の有名ではないところを特に頑張らせる指揮

リハーサルではその中間部を繰り返し練習した。伴奏形のリズムの刻みが続く中で、独特の跳躍を持つ旋律が流れていく。「メンデルスゾーンらしい曲だと改めて思う。『結婚行進曲』の中間部を通じてメンデルスゾーンという作曲家を再認識することができる」。有名ではない部分を含め「結婚行進曲」が初めて聴く曲のように新鮮に鳴り響いてくる。

リハーサルの翌日、7月6日に東京オペラシティコンサートホールで本公演「平日の午後のコンサート。敬子、七夕の夜へ」が開かれた。平日金曜日の午後2時に開演し、三ツ橋さんによる楽曲解説のトークも入るというユニークな演奏会だ。ビジネスパーソンにとっては勤務時間の真っただ中。誰が聴きに来られるのかといぶかりながら会場に入ってみると、約1600席の大ホールは意外にも満席だった。

「会社を定年退職した夫婦をはじめ、高齢のお客さんを中心に毎回満員になる」と「平日の午後のコンサート。」シリーズを主催する東京フィルの関係者は胸を張る。2018年度は指揮者を替えながら4回を予定し、10月1日には渡辺一正氏、19年1月8日には小林研一郎氏の指揮で開く。今回指揮した三ツ橋さんは「今までクラシックコンサートは平日午後の早い時間帯にはほとんどなかった。仕事をリタイアされた方々に向けて入門編としての演奏会を開くのは、音楽ファンを増やすためにとても大切なことだと思う」と指摘する。

時間に余裕のできた高齢者がクラシック音楽を趣味にしようと思い立っても、何から聴いていいのか分からない。三ツ橋さんの「平日の午後のコンサート。」ではそうした客層にぴったりの曲が並んだ。1曲目はヘンデルの組曲「水上の音楽」の「アレグロ・デチーソ」。曲名を知らなくても、聴けば「あれか」とすぐ分かる。

 ヘンデルはバッハと同時代の18世紀バロック音楽の作曲家。「最近はバロック専門の古楽器演奏家やグループがたくさんいる。なので『水上の音楽』も東京フィルのようなモダン楽器のオーケストラが多く演奏するレパートリーではない」と三ツ橋さんは指摘する。その上で「でもやはり名曲なので今回取り上げた。曲の個性を出したいという思いもあり、コンサートマスター(首席第1バイオリン奏者)と相談して少しバロック寄りの奏法にした」と話す。華々しくトランペットが鳴り、祝祭の雰囲気がホール全体に広がった。

中学時代のイスラエル旅行で指揮者になると決意

「水上の音楽」「結婚行進曲」のほか、チャイコフスキーのバレエ組曲「くるみ割り人形」から「花のワルツ」、ビゼーの「『アルルの女』第2組曲」など、「入門編」の演目が続く。しかしそれらはそもそもクラシック初心者のための音楽ではない。作曲家たちはそんなつもりで書いていない。「皆さんが必ず1フレーズは知っているようなすごい名曲は、そのフレーズの吸引力によって耳を開かされる。でもそこからどう音楽を展開させていくか、どうひき付けていくかというのが私たち演奏家の役目だ」と三ツ橋さん。1曲ごとにその都度全く新しい音楽を聴かせるための真剣勝負を強調する。

最後の演目はワーグナーのオペラ「タンホイザー」の「序曲」。新国立劇場(東京・渋谷)を中心にオペラの管弦楽を担当し続けている東京フィルは、この公演でも「タンホイザー序曲」を最も鮮やかに生き生きと鳴り響かせた印象だ。「ワーグナーといえば一定のファンがいて、それぞれ思い入れのある名演が存在すると思う。そうした伝統を大切にしながらも、極端なアゴーギク(緩急法)を排し、純粋に曲の運び方や魅力を引き出そうとした」。そうしたアプローチによる三ツ橋さんの指揮が曲本来の構造美を浮き彫りにする。終結部では弦楽器が半音階風の下降音型を繰り返す中で、金管楽器が壮大な旋律を描いていく動きが分かりやすい。日没の地平線からゆっくりと広がっていくバラ色の空のようだ。

三ツ橋さんはこの公演のトークで、指揮者になろうと決意したのは音楽教室の演奏旅行で「イスラエルに行ったとき」と語った。七夕前日のコンサートらしく、「エルサレムの嘆きの壁で『すべてがうまくいきますように』と祈った」という中学3年当時の願掛けのエピソードを披露した。ナチスの台頭と第2次世界大戦のために欧州から多くのユダヤ人音楽家が移住したイスラエルは、クラシック音楽の隠れた中心地の一つだ。イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団はレナード・バーンスタイン氏やズービン・メータ氏ら世界屈指の指揮者と名演を重ねてきた歴史を持つ。

そもそも三ツ橋さんが指揮に関心を持ったきっかけは「中学生の頃に指揮者のリハーサルビデオを見たこと」だった。「若かりし頃の巨匠たちのリハーサルの様子は衝撃だった。コンサートでは見られない裏側を見て興味を持った。音楽をつくっていく楽しさに目覚めた」と語り、アルトゥーロ・トスカニーニやカルロス・クライバー氏ら大指揮者たちの名前を挙げる。指揮者という仕事を最初に認識させてくれた人は「CDジャケットに載っていたヘルベルト・フォン・カラヤンだった」と言う。

 2005年に東京芸術大学大学院を修了後、オーストリアのウィーン国立音楽大学に留学。06年には伊トスカーナ管弦楽団を指揮し欧州デビューを果たした。07年には伊ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団を指揮してオペラデビューもした。そして08年にはイタリアの第10回アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで史上最年少の第1位となった。日本を代表する指揮者の小澤征爾氏のアシスタントを務めるなか、10年にはイタリアの第9回アルトゥーロ・トスカニーニ国際指揮者コンクールでも女性初の準優勝に輝いた。

指揮者とオーケストラとの一期一会の化学反応

今回指揮した東京フィルについては「日本で定期演奏会デビューをさせてもらった楽団。日本人の女性指揮者による定期演奏会という大英断を下してくれた」と話す。17年に東京フィルを最も多く指揮したのは三ツ橋さんだった。このほか東京都交響楽団や大阪交響楽団、群馬交響楽団など国内の主要オーケストラのほとんどを指揮している。

これほどの実績や受賞歴を持ちながらも、三ツ橋さんはクラシック音楽の聴き手を増やすための地道な取り組みを続けている。夏休みシーズンに特に力を入れているのが子供向けコンサートだ。16年に神奈川県立音楽堂で「三ツ橋敬子の新・夏休みオーケストラ」というシリーズ公演をスタートさせた。今年は同県立音楽堂が改修工事中のため、8月12日に横須賀芸術劇場で3回目を催す。神奈川フィルハーモニー管弦楽団を指揮し、トークも交え、子供たちに様々な音楽体験をしてもらう内容だ。

具体的には「横須賀芸術劇場のすてきな欧州風の雰囲気を生かし、『ラブラブ編』と称してオペラの愛の名場面をみんなで一緒に楽しむ」と話す。プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」をバレエ付きで見たり、カウンターテナーの藤木大地氏を招いて各国の恋愛の歌を披露したり。子供らが舞台に上がり、楽団員たちの間に座って1曲聴くという企画もある。子供だからといって迎合や手加減はしない。「みんなで一緒に歌えるはやりの曲は入れない。逆にバリバリの現代音楽は入れてもいい。真剣な演奏には必ず心を打つものがある。本物を聴いてもらう」と意気込む。

「私と同世代の友人が妊娠したり出産したりするとクラシックの演奏会に興味を持つ。お子さんのための胎教や情操教育として関心を持つ。でも残念ながら数回の来場で終わってしまう」。そこでもっと末永く聴いてもらうための工夫が必要になる。「保護者を含めいろんな世代が一緒に聴ける演奏会も大切だと考えている」と課題を挙げる。

指揮者としての抱負を聞くと「レパートリーを広げたい。新しい曲、現代の作品の初演も積極的に手掛けていきたい」と答えた。「できる限りいろんな曲に接し、様々な曲を紹介していける指揮者でありたい」。超名曲も現代音楽も新鮮に聴かせてこそ新たな時代の音楽ファンを生み出せる。「オーケストラは一期一会の化学反応」と心得ている彼女には、時代を代表する巨匠への道が見えているはずだ。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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