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Food Selection

2018/7/29

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「これはペペロンチーノじゃない!」

このパスタを食べて思い知ったのは、原語化していないだけで、私には私なりのペペロンチーノの定義がある、ということだ。そしてこのパスタにはそれが明らかに欠けている。このパスタを食べることで、逆に自分自身にとってペペロンチーノに必要な要素が何か、知ることができたのである。

このパスタに存在しなくて、ペペロンチーノに存在するもの。すなわち、「ペペロンチーノをペペロンチーノたらしめる条件」として、まず第一に上げたいのは、なんといってもアツアツ感だ。

思えば、中華風の野菜いためにだってニンニクや唐辛子が入る。ならば、アツアツの中華野菜いためを作る気持ちでペペロンチーノを作ってみてはどうだろう。中華には強火の料理が多いから、中華で使われる油は熱に強いはずだ。

ただ、イタリアンらしい香りもほしい。ならば、エクストラ・ヴァージン・オリーブオイルを、いためが終わった後で加えてみてはどうか。中華では最後にゴマ油で香りづけをするが、あの要領だ。余熱で香りは失われるかもしれないが、生のエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルが持つ風味をある程度はいかせるはずだ。

私が中華で愛用する油は、太白ゴマ油(純白油)。通常のゴマ油と違ってゴマを焙煎せずに圧搾し、精製したものだ。ちゃんと圧搾して油を取り出しているので、その後の精製過程でゴマの香りはかなり消えるものの、口当たりはまろやかで味にコクがある。

これまでこの太白ゴマ油を強火にかけて野菜いためを作ってきたが、そんなに油が臭くで不快に思った記憶がない。ひょっとして、これこそペペロンチーノに求められる「熱に強い油」ではないのか。

そこで、太白ゴマ油を180度に熱してなめてみる。若干の油焼けを感じるものの、サラリとして香ばしい。これまで試したどの油よりもおいしく味わうことができた。また普通のゴマ油、つまりゴマを焙煎した後でしぼるタイプでも試したが、こちらも油焼けをあまり感じず、おいしかった。高級天ぷら店がゴマ油を使う理由がよく分かった。

ゴマ油について調べてみると、リノール酸など、酸化しやすい成分がオリーブオイルよりずいぶん多い。加熱すると不快な味や臭いがしておかしくないのだ。ところが、ゴマにはセサミンなどの抗酸化物質が大量に含まれる。このためゴマ油は、植物油のなかではきわだって酸化しにくいのだと知った。

抗酸化物質は一般的に精製の過程で減少するのだが、逆に精製の工程で生じるセサミノールなどの抗酸化物質もある。だから、焙煎ゴマ油ほどではないにせよ、太白ゴマ油も抗酸化性にすぐれているのである。漠然と「熱に強い油」と考えたのは、酸化に強い油ということだったのだ。

結論として言えるのは、最後の風味づけにエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルを加えるのであれば、オリーブオイルでなくてもペペロンチーノは作れるということである。太白ゴマ油を大さじ1強入れていため、仕上げはエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルを大さじ1弱加える、といった感覚で作ればいいだろう。

土屋 敦 著 『男のパスタ道』(日本経済新聞出版社、2014年)第5章「オリーブオイルは使うな」から
土屋 敦(つちや あつし)
ライター 
1969年東京都生まれ。慶応大学経済学部卒業。出版社で週刊誌編集ののち寿退社。京都での主夫生活を経て、中米各国に滞在、ホンジュラスで災害支援NGOを立ち上げる。その後佐渡島で半農生活を送りつつ、情報サイト・オールアバウトの「男の料理」ガイドを務め、雑誌等で書評の執筆を開始。現在は山梨に暮らしながら執筆活動を行うほか、小中学生の教育にも携わる。著書に『なんたって豚の角煮』『男のパスタ道』『男のハンバーグ道』『家飲みを極める』などがある

男のパスタ道 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 土屋 敦
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)

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