睡眠不足が熱中症リスク高める 昼寝では改善せず

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/7/31

実験は室温や湿度を調整できる特殊な部屋(人工気象室)の中で行われているので、実際に日光を浴びることはない。ただ、蒸し暑さの指標として不快指数というのがあり、ウオーキング時の室温35℃、湿度40%の不快指数は82である。不快指数は80を超えるとほぼ全員が不快に感じると言われている。したがって、時速3.5kmというのはゆっくりペースではあるが、40分間も歩くのはかなりしんどい。実際、ウオーキングの間に深部体温は0.4~0.6℃ほど上昇し、1分間当たりの心拍も20~30跳ね上がっている。

そして今回のテーマである睡眠不足の影響だが、午前中のウオーキングでは7~8時間睡眠時と4時間睡眠時の間で深部体温に対する影響には差が見られなかったが、午後のウオーキングでは休憩時間中の体温の戻り(下降)が悪く、その後のウオーキングでさらに深部体温が上昇して高止まりするなど悪影響がみられた。

睡眠不足時の深部体温はウオーキングを始める前は平均36.9℃であったが4回目のウオーキング終了後には37.7℃と約0.8℃上昇していた。ちなみに重症の熱中症では40℃を超えることもある。一方、睡眠不足がないときの深部体温は37.4℃と睡眠不足時よりも0.3℃ほど低めに留まっていた。

イラスト:三島由美子

昼寝で解消できるのは眠気だけ

実際の屋外での熱暑環境の場合、湿度がより高く、直射日光を浴びるなど悪条件が重なることを考え合わせると、睡眠不足時には熱暑環境や運動などによって深部体温が高くなりやすく、熱中症のリスクが高まるという指摘には、ある程度科学的根拠があると考えて良さそうである。

なぜ睡眠不足時に深部体温が上昇しやすいのか、そのメカニズムはよく分かっていない。先の研究のデータを細かく見ると、ウオーキングで深部体温が上昇した際、安全弁として働くはずの皮膚からの放熱(冷却)が高まっていないことから、脳内の体温センサーや放熱をコントロールする自律神経に何らかの機能低下が生じているのかもしれない。

また、この研究では調べられていないが、熱中症ではインターロイキン-6など体の炎症を引き起こす免疫物質の血中濃度が急上昇することが知られており、体温上昇やその他の症状を悪化させている可能性もあるらしい。

労働安全衛生総合研究所では熱暑条件でのウオーキング後に昼寝(20分)をとらせ、深部体温を低下させる効果があるかも調べている。残念ながら、眠気やパフォーマンスの改善は見られたものの、睡眠不足による深部体温の上昇を防止する効果は認められなかった。「昼寝で解消できるのは眠気だけ」という睡眠不足の鉄則が熱中症にも当てはまるようである。

やはり熱中症対策には、夜中にグッスリ眠って体調を整え、水分をこまめにとって、塩分(ミネラル)も適度に補充し、室温や湿度に気をつけるなど地道な対策しかなさそうである。2010年の二の舞にならないように皆さん、気をつけましょう。

三島和夫
秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2018年7月17日付の記事を再構成]

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