熱中症予防に「スイカ+塩」 塩の種類で味わいも変化
魅惑のソルトワールド(19)
今夏は体温を超えるような猛暑日が続き、熱中症患者が搬送されるニュースが連日報道されている。熱気にぐったりして、食欲が落ちがちになっている人も多いのではないだろうか。こんな時に活躍してくれるのが、今が旬のスイカだ。実は、食べ方によっては熱中症予防にも有用となるのだ。スイカの栄養価や効能、そしておいしく有用な食べ方を紹介する。
どうしてスイカが熱中症予防に役立つのか。
まず、熱中症の予防には水分補給が欠かせない。スイカは90%が水分で構成されており、スイカを食べることは水分を補給することに等しいと言える。また、熱中症予防に塩分の摂取も必要だ。スイカの薄い甘味を引き立たせるために適量の塩をかける食べ方は昔からのお約束だ。「スイカ+塩」の組み合わせは、おいしさだけでなく、汗を大量にかく夏にぴったりの健康的な食べ方でもある。
さらにスイカは100グラム当たり37キロカロリーとカロリー控えめにも関わらず、適度な糖分も含んでいる。浸透圧の関係から、水と塩だけを摂取するより、水分が体内に吸収されやすい。含まれる糖分も果糖やブドウ糖で、ショ糖に比べてエネルギーへの転換も早く、血糖値も上がりにくい。
そのほか、スイカはスーパーアミノ酸とも呼ばれるシトルリンを豊富に含んでいる。シトルリンは血管を広げる作用があり、血液循環を良くして老廃物の排出を促すとされる。また、疲労の原因となるアンモニアの分解・排出を促進する働きも認められており、疲労の軽減をサポートしてくれるのだ。さらに、赤肉系のスイカでは抗酸化作用のあるリコピンやベータカロテン、ビタミンCやビタミンEも含まれている。
せっかくスイカを食べるのだから、色々な味も楽しみたい。そんな時に役立つのが塩だ。かける塩によって、スイカの味わいは大きく変化するのだ。
スイカに含まれるシトルリンはアミノ酸の一種。アミノ酸は種類によって、おおまかに「甘味系」「苦味系」「酸味系」「うまみ系」の味の違いがある。シトルリンは「甘味系」に分類され、スイカの甘味に一役買っている。また、スイカに多く含まれるカリウムは「さわやかな酸味・キレのよさ」につながる味で、後味がすっきりとなる。
さらに皮に近い部分には、ウリ科の植物に特徴的な「青い香り」が含まれている。シトルリンはスイカの白い部分に多く含まれるので、捨てずに食べ切るのがお薦めだ。
スイカに合わせる塩を工夫すると、これらの「甘味」「すっきり感」「青い香り」を際立たせたり、変化させたりしながら様々な味わいを楽しめる。今回は3つの塩を紹介する。
適度なしょっぱさには食べ物の甘味を引き立てる働きがある。これは、「味覚の対比効果」によるものだ。正反対の味同士を組み合わせることで、片方の味が縁の下の力持ちとなって、もう片方の味がぐんと引き立つことを言う。縁の下の力持ちにしたいほうの味を、ほんの少量加えるのがポイントだ。
甘味を引き立てるためのしょっぱさには、ナトリウムの純度の高い塩が適している。精製塩でも良いのだが、せっかくなので自然塩の中から選んだ。フランスのロレーヌ地方の岩塩鉱山から産出される「ロレーヌ岩塩」である。
太古の海水が結晶化する際、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウムなどミネラル別の層に分かれる。ロレーヌ岩塩はナトリウムがメインとなっている層に向けて穴を掘り、真水を注水して溶かして地上に吸い上げて結晶化させたものだ。1度溶かしてから再結晶させているので溶けやすいのが特徴。スイカにかけてしばらく置いておくと、するっと溶けて浸透していく。
次はスイカのすっきり感を際立たせる、イラン産の「ペルシャ ブルー岩塩」だ。産出量が少なく希少な岩塩だ。100グラム中に約25グラムのカリウムを含み、青く色づいて見える。その味わいは一般的な塩とは一線を画す。氷を口に入れた時のようなひんやりとした感覚と、キレの良さを感じさせる。一方、ナトリウム含有量は少なく、しょっぱさはほとんど感じない。そのため、スイカのカリウムと同化して、すっきり感が増すのである。
この「味覚の同化効果」は同じ味わい同士を合わせることで、相乗効果でその味が何倍にも感じられることを言う。甘味の強いスイカでだんだんと食べ飽きてきた時に使うと、味わいがさっぱりとしたものに変化して違った口当たりが楽しめるだろう。こちらは「ロレーヌ岩塩」と違って結晶が硬いので、振りかけてからしばらく置いてから食べるのがお薦めだ。
3つ目はスイカの青いフレッシュな香りを際立たせてくれる、沖縄県産の海水塩「青い海」だ。沖縄本島の南部に位置する糸満市沖合の海水を取水し、逆浸透膜で濃縮したのちに大きな平釜で煮詰めて濃縮・結晶化させている。味のバランスが良く水分量も適度なため、塩のテイスティングをする際に基準の塩として使用している。もちろん、普段使いにもお薦めだ。
なぜウリ科の植物と合わせると青い香りが際立つのか。化学的な理由は分かっていないようだが、スイカはもちろん、キュウリやゴーヤ、メロンなどのウリ科の植物で検証した際には、いずれもウリの青い香りが際立った。これのおかげで、果物ではなく、野菜に近い印象となる。特に、シトルリンが多く含まれる白い部分にこの塩を使うと、トウガンの浅漬けを食べているような感覚だ。食べ残しがちな白い部分にぜひ使ってみてほしい。
ちなみに、「スイカは野菜か果物か」という論争について少し説明しておきたい。一般的に、木になるものは果物で、そうでないものは野菜と区分する。その区分の仕方に従うと、地面をはうようにして育つスイカは野菜となる。だが、農林水産省の区分では単なる野菜ではなく、「果実的野菜」となっている。はっきりと野菜と分類されないのには理由がある。植物学の見解からすると野菜なのだが、流通段階で果物として扱われることが多い。しかも、もっとも目立つ味わいが甘さであるため、消費者にとっては果物と認識されがちで、スーパーマーケットの店頭などでも果物売り場に陳列されている。そのため、「果物的野菜」という、どちらともつかない立場となっているのだ。
旬を迎えたスイカのおいしさは今が最高だ。ぜひ、まるまる一玉買って、色々な塩で楽しんでみてほしい。おいしく食べて熱中症を予防して、元気に夏を乗り切ろう。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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