胸ポケットに監視カメラ 五輪の警備員、相棒はAI生産性向上へ、問われるソフトパワー

タクシーの利用もスマホ決済や多言語表示でより便利に
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2020年の東京五輪・パラリンピックの開幕まであと2年。高度成長期の1964年に実施した前回五輪では高速道路や新幹線など交通インフラを中心にハード面を大きく発展させた。今回の注目はソフト面だ。生産性向上やグローバル化といった課題の解決に向けたきっかけになりそうだ。

セコムは五輪で新たな警備手法を取り入れる計画だ。「歩く監視カメラ」はその一つ。警備員の胸ポケットに取り付けたスマートフォンで動画を撮る。データはリアルタイムで監視センターに送り人工知能(AI)による画像認識技術などで分析する。目視では気付かない細かい異常も見落とさない。

ドローンは半径3キロ先まで監視

綜合警備保障(ALSOK)は地上50~70メートルにドローンを飛ばし、半径3キロ先までを上空から監視する。電源ケーブル付きの独自機種を使い8時間の連続飛行を可能にした。五輪に先立ち19年にも実用化する。すべて人手で対応するのに比べ警備人員を大幅に減らせる。

5月の有効求人倍率は1.60倍だったが警備業に限れば6.75倍。人手確保が難しいため生産性を大胆に引き上げる必要がある。セコムの中山泰男社長は「東京五輪を完璧に守り、警備業の新たなレガシー(遺産)を築きたい」と意気込む。

「五輪期間中の混雑緩和に向けて鉄道、企業、個人が三位一体となり取り組もう」。東京都は9日、企業800社以上と時差出勤を励行する「時差Biz(ビズ)」キャンペーンを今年も始めた。「痛勤」と表現されることもある出退勤時間帯の激しい混雑を緩和できなければ輸送インフラがパンクしかねない。観客以外の鉄道利用を減らすのを目標にした社会実験だ。

NTT東日本は7~9月、3万人の全社員がフレックス勤務制度などを使って時差出勤をする。自宅などで働くテレワークも利用回数の上限を撤廃済みだ。自治体では東京都豊島区が17年、月ごとに就業時間を5パターンの中から選べるようにした。今夏の時差ビズ期間中は1日単位で選べる。

17年の時差ビズで都心主要駅の乗客数を調べたところ、1日のうち午前8時台の割合が2.3%下がった。満員電車による通勤のストレスや疲労を和らげられれば仕事の効率向上も期待できる。自宅など社外で働くテレワークの拡大なども含めた働き方改革が進めば、時間当たりの労働生産性が経済協力開発機構(OECD)加盟国中20位にとどまる現状の改善につながる可能性がある。

五輪の付随効果は28兆円

多様な人材が活躍するダイバーシティー社会の実現に向けては外国人が快適に過ごせる環境づくりも重要だ。政府は現在3000万人弱の訪日外国人数を20年までに4000万人まで伸ばす計画だ。

「トイレはどこですか」。英語で話しかけると、ロボット「ロボピン」が場所を教えてくれた。昨年11月から今年2月に東京都が庁舎で実施した実験だ。音声を認識して翻訳したり、文字で表示したりできる富士通のソフトウエア「ライブトーク」を使った。富士通は19カ国語に対応する技術を持つ。五輪までに認識技術をさらに磨く。

タクシー大手の日本交通グループは7月から、決済機能付きタブレット端末を全国のタクシー会社向けに販売を始めた。クレジットカードや電子マネーに加え中国のスマートフォン決済「アリペイ」やQRコード決済などにも対応する。言語は英語、中国語、韓国語に切り替えられる。

非常口の扉に駆け込む人やトイレのマーク――。文字を使わずに案内表示をするピクトグラム(絵記号)も充実させる。都は五輪前の19年度までの5カ年で案内標識600基を新設する。経済産業省は国際表記に合わせて駐車場など7種類のデザインを変更する。

みずほ総合研究所は五輪への期待として、ダイバーシティーに配慮した街づくり、ロボットやAIの発達、観光や健康サービスの発達を挙げる。施設整備費など直接的な経済効果は約2兆円にとどまるが、投資拡大や多言語対応、国際会議などの付随効果は約28兆円に上る。

社会変化に向けた意識づけもできれば、金額には換算できない未来へのレガシーになる。

(加藤宏一、高橋徹、桜田優樹)

[日本経済新聞朝刊2018年7月22日付]

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