5300年前の「アイスマン」 最後の晩餐がついに判明

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/7/28

肉の調理については手がかりが得られた。研究チームは肉の化学的な性質と構造を調べ、生肉や現代の調理済の肉と比較。エッツィの胃の肉は60℃以上に加熱されてはいないと推定した。マイクスナー氏によれば、新鮮な肉はすぐに傷むため、肉は長期間もつように乾燥されていた可能性が高いという。また、炭素の斑点があることから、肉は薫製にされていた可能性もある。

さらにエッツィはヒトツブコムギと、有毒なワラビ属の植物を食べていたことも判明した。このワラビを大量に摂ると、ウシは貧血を起こし、ヒツジであれば失明を引き起こすことがわかっている。また発がん性も指摘されている。しかし、現在でも、少量であれば、このワラビを食べる人は一部にいる。

エッツィもワラビを食べていたかもしれない。「ひょっとすると、ワラビを食べることで胃痛を抑えていたのかもしれません。彼の胃が菌に冒され、おそらく痛みに悩まされていたことを私たちは知っていますから」とマイクスナー氏は話したが、「ただ、この仮説は考えすぎですね」と付け加えた[注]。もう一つ可能性もある。エッツィが食料をワラビで包んでいたのではないかということだ。それで、軽食と一緒にワラビの一部も偶然口に入ったというものだ。この説は以前、エッツイが苔を食べていた理由として出されたものだ。

[注]以前の研究で、アイスマンの胃の中からピロリ菌が発見されている。

追われて山に逃げたのではない

胃の残留物からわかるのは、5300年前も、繊維、タンパク質、エネルギー豊富な多量の脂肪という、実によく考えられた食事をしていたということだ。「彼らは既に、衣類や狩猟道具を目的に合わせて作る知識を持っていました。これは食事にも当てはまるのです」とマイクスナー氏は言う。「アイスマンが食べたものが、元々準備された食料であったことは明白です」

未消化の微小な植物組織。アイスマンの胃の内容物から研究者が発見した(PHOTOGRAPH COURTESY INSTITUTE FOR MUMMY STUDIES, EURAC RESEARCH/FRANK MAIXNER)

ほんの少しの胃の内容物からでも、エッツィの最後の数時間の様子が驚くほど詳しくわかる。「今回の成果は、本当にずば抜けたもので、そうそうない大発見だと思います」と話すのは、米ノースウェスタン大学の生物人類学者で、今回の研究には関わっていないキャサリン・ライアン・アマート氏だ。

アマート氏は、これまで間接的な方法でアイスマンの食生活を調べるほかなかったことを見てきた。それだけに、今回、直接、胃の内容物を調べられたことに対して「本当に興奮する」と語る。「今回の研究によって、より細部まで理解し、より詳しい議論ができるようになるでしょう」とアマート氏。

一方で、エッツィがどうして山中で息絶えたのかについて、まだ結論は出ていない。体についたたくさんの新しい傷は、激しく争ったときにできたもので、エッツィは追っ手から逃れて山に駆け込んだという意見もその一つだ。しかしマイクスナー氏は、最後の食事からわかるストーリーは少し違うと言う。「私の個人的な意見ですが、エッツイは最初から山に入る支度をしていたと思います」とマイクスナー氏は語る。

穀物と肉がそろった食事、そしてシカ皮の矢筒に残った未使用の2本の矢は、エッツィが山に逃げ込み、やむなく獲物を狩って食べて、しばらく後に死んだのではないことを物語っている。彼が死の数時間前に食べたのは、マイクスナー氏が言うところの「念入りに用意された食料の詰め合わせ」だったようだ。

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年7月17日付]

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