マイカーかカーシェアか お得の分岐点は1日何分?
いまさら聞けない大人のマネーレッスン
カーシェアを利用したことがありますか? それほど車に乗らない人であれば、車を所有するよりもカーシェアを利用した方がお得だと考えられますが、実際のところ、損益分岐点はどこにあるのでしょうか。
車を購入するとどのような費用がかかるのか
カーシェアはインターネットで予約した車を近くの駐車場から分単位や時間単位で借りられるサービス。ガソリンを入れて返す必要がなく、利用料金に保険料が含まれているため便利です。一度、会員登録を済ませると、レンタカーのように借りる度に面倒な手続きもありません。先日、カーシェアリングの大手企業が、会員数100万人を突破したことを発表しています。筆者も、駐車場に止まっているカーシェア用の車をよく見かけます。
もちろん、車には所有することで得られる利便性があります。公共の交通機関がない地域では、車は重要な移動手段です。また、他人よりも価格が高い車に乗ることで得られる満足感……ステータスとしての側面もありますが、ここではシンプルに費用の部分だけを考えます。
まずは、車を購入すると、どのような費用がかかるのかをみてみましょう。
・車両代
・自動車取得税
【毎年支払う税金・保険料】
・自動車税
・重量税
・自賠責保険
・自動車任意保険
【維持費など】
・ガソリン代
・メンテナンス代
・車検代
・駐車場代
なかなか多くの費用がかかりそうです。
ここでは、カーシェアでも利用できるトヨタ自動車のプリウスを購入した場合の費用をみていきます。自動車検査登録情報協会「平成29年の車種別の平均車齢推移表」によると、乗用車の買い替え平均年数は8.53年。プリウスを購入して8年間乗った場合の費用を試算します。
まずは、購入時にかかる費用をみてみましょう。グレードやカーナビなどのオプションの有無や、購入時期や店舗によっての値引き幅の違いなど、条件によって価格は変わってきますが、ここでは車両代と消費税・自動車取得税を合わせて、270万円とします。購入時には、その他に納車費用、車庫証明費用、検査登録手続き費用がかかります。サービスとして行なっている販売店もありますが、ここでは各1万円で計3万円としましょう。
所有することで発生する税金をチェック
次に、税金です。「自動車税」と「自動車重量税」の2種類があります。
「自動車税」は、車の総排気量によって、税額が変わります。プリウスは総排気量1.797リットルで、1年間の税額は、3万9500円。ただし、プリウスは「エコカー減税」の対象なので、2年目の自動車税が安くなります。初年度は3万9500円、2年目は1万円、3年目以降は3万9500円という具合ですね。8年間の自動車税の合計は28万6500円です。
「自動車重量税」は、道路の整備に使用される税金です。道路の使用料、といったところでしょうか。車両の重さによって、税額が変わります。ここでも、プリウスは「エコカー減税」で初年度から5年目までの重量税はなし。6年目以降は7500円で、8年間の合計は2万2500円となります。
これら2つの税額を合わせると、8年間で30万9000円となります。ただし、エコカー減税の対象でない車や、総排気量・重量が大きい車は、上記の税額より高くなりますので注意してください(軽自動車は安くなります)。
車を所有することで必要になる保険料も勘案
次は「保険料」。車を運転する際には、自動車保険に加入する必要があります。自動車保険には、法律で加入が義務付けられている「自賠責保険(強制保険)」と、任意加入の「自動車任意保険」がありますが、一般的には両方に加入します。「自賠責保険」の補償金は対人事故の賠償損害のみ。「自動車任意保険」で補償を上乗せするイメージですね。
保険料は、保険会社、運転者の走行距離や免許の種類(ゴールド免許の場合は安くなります)などで違います。ここでは、自賠責保険は1万5520円(三井住友海上 1年契約の場合)、自動車任意保険は4万6800円(SBI損保 40歳ブルー免許の場合)とします。
2つの保険料の合計は年間6万2320円。8年間で49万8560円となります。ただし、免許更新の際に過去5年間無違反だった人(いわゆるゴールド免許ですね)は、任意保険が上記よりも安くなるでしょう。
維持費の目安は年間約7000kmの走行で計算
最後に維持費です。主に、ガソリン代、駐車場代、車検代、メンテナンス代が考えられます。
ガソリン代は原油の価格に左右されるため、正確に試算することはできませんが、ここでは現在の価格で考えます。2018年7月中旬現在、レギュラーガソリンの価格は、おおむね150円/リットル。プリウスの実燃費は、25.1km/リットル。100km運転すると、598円程度のガソリン代がかかる計算です。
2015年のソニー損保のアンケートによれば、走行距離の平均は年間7073kmでした。この平均走行距離を走ったとして、1年間のガソリン代を約4万2300円とします(端数切り捨て)。毎年同程度の距離を走行したとして、8年間で33万8400円となります。
メンテナンス代は、タイヤ、バッテリー、エンジンオイルの交換が考えられます。これらを、仮に車検のときに交換したとします(実際にはタイヤの交換サイクルはもっと長く、オイル交換サイクルはもっと短い場合もあります)。業者によって異なりますが、ここでは筆者の車検代を参考にします。
バッテリー交換に3万円、エンジンオイルの交換に1万円、タイヤ4本全て交換で4万円、車検代5万円×3回(8年間で3回車検を受けます)で、8年間のメンテナンス代は、23万円となります。少し話が前後しますが、車検時には、自賠責保険の保険料、自動車重量税、印紙代を支払います。これを法定費用といい、どの業者でも金額は同じです。
駐車場代は、ご存知の通り、場所によって大きく異なります。日本パーキングのウェブサイトによると、新宿区の月極駐車場は2万5920円から4万8600円。横浜市は1万4000円から4万7520円と設定されています。今回の試算では、都市部から少し離れたところ住んでいると仮定して、月額2万円とします。その場合、8年間の駐車場代は192万円となります(車庫付きの持ち家の場合はこの費用はかかりませんが、今回の試算からは除外します)。
プリウスを新車で購入し、8年間乗った場合の総費用は以下の通りです。
【購入時にかかる費用】
・車両代(消費税・自動車取得税含む) 270万円
・納車費用、車庫証明費用、検査登録手続き費用 3万円
【毎年支払う税金・保険料】
・自動車税(8年分) 28万6500円
・自動車重量税(8年分) 2万2500円
・自賠責保険(8年分) 12万4160円
・自動車任意保険(8年分) 37万4400円
【維持費など】
・ガソリン代(8年分) 33万8400円
・メンテナンス含む車検代(3回分) 23万円
・駐車場代(8年分) 192万円
合計 602万5960円(年間75万3245円)
今回の試算では、600万円強という結果になりました。毎年、同じ費用がかかるわけではありませんが、年間で75万3245円かかっている計算です。カーシェアで年間76万円以上の料金を払っている場合は、購入した方がお得、ということになります。1カ月で6万3000円程ですね。
カーシェアのコストを利用時間から計算してみる
では、どれくらいの頻度でカーシェアを利用すると、1カ月で6万3000円を超えるのでしょうか。
カーシェアリング最大手パーク24の「タイムズカープラス」の場合、初期費用が1550円(長期的には誤差のレベルなので今回の試算でははずします)、プリウスの利用料金は15分206円(ガソリン代込み)です。月額基本料金が1030円かかりますが、これは利用料金に充当できるので無視します。
プリウスを毎日2時間利用した場合、1カ月(30日で計算)の利用料金は4万9440円です。1日2時間以内の利用であれば、毎日乗ってもカーシェアの方が安く済みます。
ちなみに週末だけ旅行に使うという用途ですと、対象ステーションが限定されますが、タイムズカープラスでは1万2000円の36時間パック、1万4000円の48時間パック、2万円の60時間パックというプランを用意しています。
月に1回土日の旅行に出かけるような場合(例えば土曜日の朝6時にレンタルして出発して日曜日の夜6時までに返却する場合)、1万2000円です。これ以外の残りの28日間を1日2時間利用すると4万6144円です。合計では5万8144円となり、カーシェアのほうがお得という結果となります。
さらに月に2回は土日の旅行に出かけるような場合は2万4000円に、残り26日間毎日2時間利用すると4万2848円。合計で6万6848円で、わずかに車を所有したほうが割安となります。
つまり、毎日2時間以内で買い物や子どもの送り迎えなどに車を使い、月に1回の週末旅行に車で出かけるという用途ではカーシェアのほうがお得で、さらに月に2回、週末旅行に出かけるようなライフスタイルならば車を所有したほうがお得となります。
もちろん、住んでいる地域や走行距離によって、これらの費用は変わります。カーシェアできる車のステーションが近くにあるかどうかでも使い勝手が変わってきます。あくまで1つの目安として参考にしてみて下さい。
(執筆協力 瀧健=ファイナンシャルライター)
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。社会保障審議会企業年金部会委員。確定拠出年金の運用に関する専門委員会委員。経済エッセイストとして活動。近著に「5年後ではもう遅い!45歳からのお金を作るコツ」(ビジネス社)、「身近な人が元気なうちに話しておきたいお金のこと介護のこと」(東洋経済新報社)、「100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる!」(集英社)、「届け出だけでもらえるお金」(プレジデント社)など。
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