「父に『練習だけは後悔しないようにやりなさい』と厳しく言われました。その父が音楽と向き合っている姿を間近に見たことが、大きかったですね。父は閉じこもってずっと部屋で練習しているか、オーボエを吹くリードを作るかしていました。自分にむち打って、最高の自分を出そうとする真摯な姿に影響されました。今でも目標とする一人です」

――アーティストとして生き残るには、自らをプロデュースする力が必要ですね。

「これまでクラシックとポップスの両方と付き合ってきました。デビューから10年が過ぎた今、基本に立ち返って全曲クラシックのアルバムを作りました。本気でクラシックに取り組んでいることを形にできたほか、『私はこれが好き』という思いも表現しました」

「自分の経験値を音色で表現できるようになってきましたが、扱うバイオリンでも音色は変わります。制作後300年を経た楽器は音の深みが全然違うのです。数年前から使い始めたドメニコ・モンタニャーナは初めて弾いたとき、『君はどこまで弾けるの』と試されている感じでした。少しずつ楽器が心を開いてくれるのがうれしいですね」

◇  ◇  ◇

――芸術の分野でもAIの実用化が試されています。音楽への影響をどう見ますか。

「弦楽器を忠実に再現できる能力に衝撃を受けています。音程もぶれません。ですが人による演奏には、演奏者の呼吸や悲喜こもごも、つらい経験などの感情を含んだ魂が込められています。伝わり方が違うと思うのです。ミスも含めて生のものからしか生まれない情熱は確かにあります」

――今後のキャリアをどう考えていますか。

「これまでの10年は無我夢中で自分を確立する時代でした。ただ、弦楽器の演奏者は30代以降は急激なスキルの成長が難しくなります。このため、技術以外の歌心を育てるためライブやコンサート、美術館にも足を運ぶようにしています。作者や演奏者が思いをどう伝えたいのかを自分なりに解釈したいからです」

「目の前で挑戦し続けている方々に刺激を受けることも多いです。フィギュアスケートの羽生弦選手にもお会いしましたが、大舞台で活躍するため、ステージ裏で血のにじむような努力をされていました。そういうものを見たり感じたりすることが大事だと考えます」

――新たにチャレンジしてみたいことはありますか。

「いつまでもバイオリンと一緒に過ごしたい」と話す

「バイオリン協奏曲など大曲にも挑んでいきたいですね。私自身、まだ変化している途中だと思っています。若者にも音楽の楽しみをもっとわかってほしいし、クラシックも聴いてほしい。どうやったら身近に感じてもらえるか自分なりに思案しています」

「若い人にはやりたいと思ったことは積極的にやっておくべきだとアドバイスしたいですね。自分の得意なことや、やらなきゃいけないことを突き詰めていくと、色々なものが見えてきます。だから楽しい。私は年を取ってコンサートを開けなくなっても、もう弾けないといわれる年齢になっても、いつまでもバイオリンと一緒に過ごしたいですね」

(流合研士郎)

[日本経済新聞朝刊2018年7月23日付]

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