吉野家赤坂3丁目店 最近の店舗はおしゃれに進化した

いつも言っていることですが、A5ランクの牛肉を使った特選のすき焼きは、どんなにおいしくても、毎日食べられるものではありません。うまいけど、飽きちゃう。その点、似て非なる牛丼は、毎日食べても飽きないんですよ。むしろ、毎日食べたくなるという代物。オヤジは食材の組み合わせやたれの材料の配合などについて研究を重ね、これをつくり上げたのです。

--吉野家でアルバイトをされていた1971年、三越銀座店にマクドナルドの国内1号店がオープンしました。

バイト先の店長から「ハンバーガーを買ってこい」と言われました。話題の外食チェーンの日本初上陸ということで、吉野家でも興味津々でしたから。でも、「これで腹いっぱいになるのかなぁ。だったら牛丼の方が満足感はある」と思ったものです。毎日、賄い飯で食べていて、飽きがこない牛丼の虜(とりこ)になっていたのでしょう。音楽は次第にあきらめ、外食産業に興味を持つようになっていました。

そんなころ正社員に採用されました。配属先は吉野家発祥の築地店です。ここでもミスター牛丼たるオヤジのすごさを見せつけられました。築地市場内にあったのでお客様は市場で働く食のプロばかり。当然、舌は肥えています。その人たちが毎日来店するのです。悠長に「ご注文は?」などと聞こうものなら、「俺の好みは皆知っているんだ」とばかりににらまれます。500人のお客様の顔を覚え、「つゆだく」「ネギ抜き」「大盛り」など、お客様の好みを覚えました。たかだか客単価数百円のファストフード店が、お客様の隅々まで気を配るサービスを実現していたのです。

しかも、わずか20席の店舗で、忙しいお客様の滞在時間が約5分。1時間当たり12回転以上、ピーク時は立ち食いにも対応し、1日1000人の来店を受け入れます。オヤジはクイックサービスを最優先するために、サービスを構成する多くの要素を一つづつ分析し、これ以上はできないというところまで早さを極めたのです。結果、満席状態で、お客様が入店し、作り置きではなく、15秒で提供する究極のサービスを実現しました。

オヤジは、あってもなくてもいいものはなくていい、ないよりあったほうがいいという程度のものもなくていい、なくてはならないことだけに集中特化するという考えです。凡人は総花的にすべてをやってしまうけど、オヤジは一意専心、劣後のものは捨てる、捨てることで一意専心を際立たせる……。クイックサービスの極みだと思いましたね。吉野家のキャッチフレーズも今は「うまい、安い、早い」ですが、当時は「早い、うまい、安い」でした。