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カリスマの直言

北欧に学ぶ キャッシュレス支える強い経済(加藤出) 東短リサーチ社長チーフエコノミスト

2018/7/23

リクスバンクは先日、次のような声明を発表している。「いくつかのウェブサイトやソーシャルメディアは、リクスバンクがe-クローナを販売している、との誤った情報を流布している。(略)しかしながら、リクスバンクがe-クローナを発行するか否かはいまだ決定されていない。それらを購入することは不可能である」――。仮想通貨ブームに中銀デジタル通貨を呼び込みたい人々がいるらしく、それに対する不快感を同行は表明している。

■ITが経済を推進するという強い意識

このように北欧の金融当局はあらゆるデジタル化に前向きというわけではないのだが、ITが経済を推進していくという意識は非常に強く抱いている。フィンランド中銀のオッリ・レーン総裁も18年6月8日付のブログ(当時は副総裁)で「デジタル時代の通貨」と題して、デジタル化は金融産業を急速に変容させているが、テクノロジーの進展は経済の生産性向上にやがてつながる、といった趣旨の非常にポジティブな見解を示していた。

スウェーデンは以前は製造業を重視していた。大手自動車メーカーの経営が傾いたときに税金で支えようとしたが失敗した。結局、「賃金が高いこの国で製造業を維持することは困難」と割り切り、その後は製造業が外国資本に買収されても政府は関与しないスタンスとなっている。

近年は国家戦略としてIT産業を基幹産業に据えている。IT技術者の育成に力を入れており、子どもは小学校の1年生から学校でコンピュータープログラミングのコードを習っている。インターネット上のフェイクニュースを見分けるノウハウも小学校で教えているという。

■高賃金だが労働時間は短く、生産性は高い

フィンランド中銀総裁のブログにも「(デジタル化によって)急速に変化する労働市場をかんがみると、社会にとって教育は依然として賢明な投資となりそうだ」と記載されている。

各国の物価水準を考慮した「購買力平価」で比較すると日本の実質賃金は1991年時点では北欧4カ国(フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー)を上回っていた。ところが、現在は4カ国すべてに追い抜かれている。

その一方で、彼らはワークライフバランスを重視しており、労働時間は日本よりも圧倒的に短い。経済のデジタル化を進める上で日本も北欧の生産性の高さといった経済の強さを学ぶ必要があるだろう。また、中銀デジタル通貨について日銀も現時点では慎重なスタンスを見せているが、北欧がこの問題にどう対応するのか大いに注目される。

加藤出
1965年生まれ。88年横浜国立大学経済学部卒、同年4月東京短資入社。短期市場のブローカーとエコノミストを兼務後、2002年2月に東短リサーチ取締役、13年2月より現職。マーケットの現場の視点から日銀、FRB、ECB、中国人民銀行などの金融政策を分析する。著書に「日銀、『出口』なし!」(朝日新聞出版、14年)など。

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