ブレーキが効かない 睡眠不足の人がキレやすいワケ

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/8/28
イラスト:三島由美子

さて、ようやく本題に入る。睡眠不足のときにいらいらしてキレやすくなるという経験は誰しも持っていると思うが、その脳内メカニズムが最近の研究から分かってきた。

脳のブレーキが効きにくくなる

20代の健康な若者に実験に参加してもらい、5日間にわたって8時間たっぷり眠った後と、同じく5日間にわたって4時間しか寝かせなかった後で比べてみると、睡眠不足時には不快な感情刺激(他人の怒りの表情を見るなど)によって気分が悪化しやすく、不安になることが確かめられている。

その時、脳内の神経活動にどのような変化が生じているか機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)で調べてみると、睡眠不足時には先の喜怒哀楽が暴走しないようにするブレーキ(前帯状皮質と扁桃体の間の機能的なつながり)が効きにくくなっていることが明らかになったのである。

普段は気にならないような上司や同僚のちょっとした仕草や表情に悪意を感じ、そしてそれに対する腹立ちがなかなか収まらず、帰宅途中に立ち寄った酒場で悪酔いするようなことがあれば、それは睡眠不足による過剰反応かもしれない。

より最近の研究では、このような脳内の神経活動の変化はわずか2日間程度の睡眠不足でも生じることが明らかになっている。厚生労働省が毎年実施している国民健康・栄養調査によれば、日々の睡眠時間が6時間未満の人が成人の40%、5時間未満の人でも8%に及ぶ。キレ準備状態にある日本人は相当数に上るだろう。すでに世間を賑わせた「キレた人々」の中にもグッスリ眠っていれば怒りをこらえることができたケースがあったのではなかろうか。

三島和夫
秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2018年5月17日付の記事を再構成]

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