埼玉県の事業は約4億7千万円、愛知県は約200億円かかりました。気候変動適応法は、国が情報提供により自治体の計画策定を支援しますが、財源の手当ては直接していません。国連大学の沖大幹上級副学長は「気候変動の影響を自治体が独自に把握するのは容易でない。国は、計画の実効性を高めるため、より安価な手法などの情報提供をする必要がある」と話しています。

住明正・東京大学名誉教授「雨量増加への備え、優先を」

気候変動適応法の課題などについて、気象学が専門の東京大の住明正名誉教授に聞きました。

――気候変動適応法についてどう考えますか。

住明正・東京大名誉教授

「二酸化炭素(CO2)を削減するなど温暖化を緩和するための法律はあったが、温暖化による被害を軽減するための法律がなかった。温暖化に適応するための政策に法的根拠を与えたことの意義は大きい」

「具体的な適応策を実施するのは都道府県や市町村などの自治体となっている。地域によって事情は様々なので、全国一律に基準を決めて国がやるより、地域に応じてきめ細やかな対応を取ったほうがいい。自治体を主体とすることは間違っていない」

――課題はありますか。

「やるべきだという建前論になっており、財源の裏打ちがない。国は適応策を支援するためのガイドラインを作ることになっているが、自治体はカネがなければどうしようもないと言うだろう」

「国が(排出するCO2の量に応じて企業などに課税する)炭素税のような税を新設してお金を捻出するべきだという意見もあるが、国がやるべきことで企業に負担をかけるのは筋違いだといった反対意見もある。適応策でやるべきことは、各省庁の従来の予算項目の中に入っているものが多い。例えば国土交通省には河川の整備に、農林水産省には農業の改良に多くの予算がついている。法を根拠として、従来の予算項目の増額要求をしていくというのがひとつのやり方だ」

「財源ができたとしても、バラマキになってしまう懸念もある。どの分野への対策を優先すべきなのかを決めなければならない」

――どの分野を優先すべきでしょうか。

「自然災害だ。今後ものすごく降雨量が増えるのは確かなことだ。降雨量が増えれば排水が間に合わなくなって、都市部でも冠水が起きるだろう。多くの人が緊急だと思える課題だ。一方で、例えば(蚊が媒介する)デング熱の健康被害の要因は複雑で分かりにくい。温暖化の要因があるが、蚊や人の移動も関係してくる。単純に温暖化だけが引き起こすわけではない」

「適応策を策定する上で念頭に置くのは人の生活だ。生活は多様で、対策をしてほしい分野もそれぞれ異なる。ただ、自然災害の大変さについては、意見は大きく割れないだろう」

(久保田昌幸)

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