軽量・安価な「Surface Go」 iPadキラーになるか
西田宗千佳のデジタル未来図
マイクロソフトは2018年7月11日、同社のパソコンSurfaceシリーズの新型である「Surface Go」を発表した。500g台の軽量ボディーに加え、価格も6万円台からと安く、一部には「iPadキラー」といった声もある。iPad Proユーザーである筆者が発表会からその実力を見た。
上位モデルの特徴を引き継ぎ小型化
「Surface Go」は従来のSurfaceシリーズから「高解像度のディスプレー」「ペンとタッチに対応」「素材を生かしたデザイン」「顔認証機能を使ったセキュリティー」といった機能を引き継ぎ、小型化した製品だ。CPUこそ非力ではあるが、これまでのSurfaceと比べて「安価に」「持ち運びやすく」という希望に応えている。
発表会会場で使ってみた。キックスタンドを使ったデザインは「設置面積が広くなる」「膝の上で使いにくい」という欠点もあるが、小型化したためか、多少改善されている。長時間使ってみないと厳密には評価できないが、搭載しているインテルのCPU「Pentium Gold」は、低価格タブレットで使われることの多いインテルの「Atom」シリーズより速いので、ウェブやオフィスソフトの利用ならかなり快適であろう、と思われる。メモリーが4GB・ストレージが64GBの最廉価モデルは、2年・3年と使うには能力不足かと思うが、メモリー8GB・ストレージ128GBの上位モデルなら、満足度は高いのではないか、と予想できる。
さらに顔認識機能やペン入力などに使われている機構は上位機種と同じで、精度が劣るわけではない。ちょっとあり得ないくらい「機能がリッチな低価格パソコン」になっている。ようやく「バランスの良いWindowsベースのタブレット」が登場したように思う。Surface Goはそんな製品だ。
「これひとつでOK」が美点
一方、iPadの登場から8年がたち、タブレットは「買いにくい」製品になりつつある。タブレットは閲覧に向くが、それだけのために買うには高価であり、「スマホでいい」と思う人の方が多い。だから、タブレットの出荷量は2016年以降鈍化・減少傾向にある。
閲覧だけでは買ってもらいにくいから、キーボードを併用して「パソコン的に使う」ことも考えた製品が主流となってきた。iPadの上位機種「iPad Pro」は明確にそういう存在だ。
すでに述べたように、Surface Goは、「性能とコストのバランスが良い」ことが特徴だ。すなわち、iPadと比べて最大の利点は「パソコンとしてフル機能が活用できること」にある。
例えばiPadにもマイクロソフト・オフィスはあるが、機能を削減した「モバイル版」だ。Surface Goならば普通のパソコン版のマイクロソフト・オフィスが使える。
ファイル管理では、iPadも17年に公開された「iOS11」でファイル管理の機能が強化され、パソコンに近いことができるようになってはいるものの、やはり相当に「慣れ」や「工夫」が必要だ。パソコンのファイル管理がそのまま使えるSurface Goの方が使いやすい。
タブレットらしいアプリではiPadに一日の長
一方で、iPadと比較した場合には弱点もある。それは「アプリ」だ。
パソコンのソフト市場は「定番以外は有料では売れない」状態が長く続いており、ウェブアプリやサービスの形に移行している。カメラやペンを活用した「新しい使い方のアプリ」については、iPad向けの方が多数登場しており、活気にあふれている。有料のアプリが売れる土壌もある。「タブレットらしさのあるアプリ」はiPadに集まる傾向にあるのだ。
重さや大きさ、解像度といった部分では、iPadとSurface Goの差は大きなものではない。だが、「個人向けコンピューターとして向いている方向」では、現状、両者にはかなりの違いがある。従来のパソコンと同じように使うなら、パソコンそのものであるSurface Goの方がずっといい。だが、タッチやペン、カメラを生かした「タブレットらしいアプリ」を多数使い、パソコン的な使い方をする時間は短いなら、iPadの方が便利だ。寝転がってウェブやメール、メッセンジャーなどを使う場合にも、ユーザーインターフェースの最適化が進んでいる分、iPadの方がいい。
すなわち、Surface Goは「iPadキラー」と呼ばれるが、実は「iPadそのものに対抗できるわけではない」ことが見えてくる。むしろ、低価格・小型のパソコンであることがなによりの美点であり、その上で「タブレット的な使い方も快適になった」と考えるべきだろう。
両者の美点の違いが、現在の「板型コンピュータ」に対する、アップルとマイクロソフトの考え方の差を表している、と言えそうだ。
フリージャーナリスト。1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。
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