週末レシピ フレンチトースト必ず成功、プロの裏技
昭和の時代から食べ親しまれているので、あらためて紹介するほどのものでもないが、食パンを、卵と砂糖と牛乳の液体につけてフライパンで焼くだけの「フレンチトースト」。近年は行列が絶えないカフェも出現。いまだに何時間も行列する様には驚かされる。作り方は誰だって知っているだろう。とはいえ、上手に焼けないという失敗が意外と多い。そこで今回は、今さらながらフレンチトーストの、絶対に失敗しない作り方を伝授する。
<材料(2人前)>
食パン(5~6枚切り)3~4枚 / 卵 2個 / 牛乳 100cc / 砂糖 大さじ1~2 / サラダ油・バター 各適量
<作り方>
(1)卵と砂糖、牛乳を加えて混ぜる
(2)(1)に食パンをさっと浸す
(3)(2)をサラダ油とバターを溶かしたフライパンで両面を焼く
あまりにも簡単で、作り方と題するほど、大げさではない。しかし、いろいろ失敗はする。まず、焼き上がりが、まだらになってかっこ悪いフレンチトーストをこしらえてしまった方は多いだろう。
それは、卵液をしっかりと混ぜ合わせていないことが原因だ。白身のダマが残らないよう、卵黄と卵白をていねいに溶きほぐし、砂糖を加え泡立てないように混ぜ込む。そこに牛乳を静かに注ぎ併せる。そうすることで、卵液が均等に混ざり、焼き上がりもきれいになる。
次に、食パンに卵液を浸しても、うまくしみこまないということを経験した方もいるはずだ。これには、とっておきの裏技をお教えしよう。食パンに卵液をムラなくしみこませるには、食パン1枚につき電子レンジに2~3秒かけると、液体の吸収効率がグッと上がる。フランス料理店を経営する先輩シェフに教えてもらった、これぞプロの裏技だ。
そして、焼くときにどうしても焦げてしまうという失敗。これは、熱し過ぎたバターによるものだ。バターを焦がさないようにするためには、先にサラダ油を引きそこにバターを落とすこと。バターが溶け始めたら、パンを投入。中火を保ち、両面がキツネ色になるまで焼く。これで成功率が格段に上がる。たかがフレンチトーストと、あなどることなかれ。簡単なレシピこそ、基本が大事になってくるのだ。
さて、基本のフレンチトーストが習得できたら、好みのジャムやメープルシロップ、シナモンシュガーなどをかけて、アレンジしてみよう。その際は、卵液の砂糖を少なめにしておく。食事として、ソーセージやハムなどを添える場合は、少量の塩も加えるとよい。
ところで、「フレンチトースト」というけれど、「ナポリタン」がイタリアにはないように、「フレンチトースト」もフランスにはないのではないか。そう思っている方もいるはず。答えは「ある」だ。
食パンを使う日本の昔ながらのスタイルは、米国由来だと言われている。しかし、ヨーロッパ各地では昔から、今のフレンチトーストと似たようなものが食されてきた。
フランスでは「フレンチトースト」と呼ばず、「パンペルデュ」(Pain perdu)と呼ぶ。直訳すると「失われたパン」となり、残って硬くなったパンを使用したことが語源となっている。ここでのパンとは、バゲットのこと。フランスでは常食は食パンではなくバゲットなので、必然的にパンペルデュにもバゲットが使われる。
早速、パンペルデュを作ろう。と言いたいところだが、バゲットを使用するには、食パンのようにさっと卵液に浸して焼くだけ、とはいかない。バゲットに液体がしっかりしみこむまで最低でも1時間、長ければ半日から一晩くらい置いた方がおいしい。
そこまで手間暇をかけずとも、ここではブリオッシュやデニッシュといった生地のパンを使い、時短を試みる。
<材料(2人前)>
ブリオッシュなど (2~3cm厚) 2枚 / 卵 1~2個 / 牛乳 50cc / 生クリーム 50cc / 砂糖 大さじ2~3 / サラダ油・バター 各適量
<作り方>
(1)卵に砂糖を加えて、牛乳と生クリームを混ぜ合わせた卵液にパンを浸す
ここでは、パンが卵液をすべて吸い取るまで浸しておくことが重要。ただし、バゲットでは数時間を要するものの、ブリオッシュはきめが細かく軟らかいので、あまり長時間置くとパンが崩れてしまう。5~10分程度でよい。ブリオッシュを使う利点は、生地自体にバターや卵、砂糖がたっぷり使われているリッチなパンなので、味わいも格別。
(2)サラダ油とバターを溶かしたフライパンで、(1)をあまり色付けないように弱火で焼く
蓋をして蒸らすと、中までしっとりと仕上げることができる。焦らずじっくりと焼き上げよう。粗熱を取ったのち、冷蔵庫で冷やす。
(3)(2)を皿に盛り、フルーツや生クリームなど好みのトッピングを添える
これで、パンとは思えないほどすてきな一皿になること間違いない。
日本や米国で、フレンチトーストは軽食としての位置付けに対し、フランスでは食後のデザートとなる。パリのビストロで一度だけ食べたのは、まるでケーキのような様相でおしゃれに提供されたものだった。
しかし、「大昔の文献には肉料理などの付け合わせとして載っていたと、フランス人コックが話していた」と、前出の先輩から聞いたことがある。ただ、名前がマイナスなイメージを与えるせいか、デザートとしても、付け合わせとしても、今やフランスの飲食店で見かけることはほぼない。名前の通り、家庭で残り物のパンを集めて作られているようだ。
そしてもう一つ紹介したいのが、香港のフレンチトースト。呼び方は広東語で、「サイドゥシー」(西多士;西洋式トースト)、または「ファッランドゥシー」(法蘭多士;フレンチトースト)(「カフェで『出前一丁』が香港流 日本にも相次ぎ出店」参照)。パンを卵液に浸すのではなく、衣のようにつけ、油で揚げてから、バターとシロップやハチミツをたっぷりとかけたハイカロリーなおやつだ。
チャチャンテン(茶餐廳)と呼ばれる香港式カフェレストラン、ファミレス的大衆食堂で目にする定番メニュー。だが私がサイドゥシーを初めて食べたのは香港ではなく、日本にあるチャチャンテンでもない。香港からの帰国子女である友人にその存在を教えてもらい、自宅で作ったのが最初だった。
「本場ではプレーンタイプの、いわゆる揚げパンが一般的。あとはハムサンドとか、トースト自体には甘さがないタイプが多いよね。これに、もちろんバターとハチミツだよ」と、香港在住40年近くになる知人の談。
日本のチャチャンテンでは、プレーンやハムなどを見かけたことがなく、ピーナツバターか、カヤジャム(ココナツミルクや卵などで作られたジャム)をサンドしている。
今すぐにフレンチトーストを食べたいなら、食パンのオーソドックスなタイプ。時間があるなら、パンペルデュ。変わり種が希望なら、サイドゥシー。気分やシーンに合わせて、色々なフレンチトーストを作ってみてはいかがだろう。失敗を恐れず、チャンレンジしてほしい。
(世界料理探究家 T.O.ジャスミン)
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