日本のイベント、なぜ登壇者は男性だけ?
ダイバーシティ進化論(村上由美子)
5月に欧州で参加した国際会議で、パネリストは全員男性というセッションが含まれていた。質疑応答の際、「なぜ女性がいないのか」との質問が上がり聴衆からはブーイングも。欧米諸国では、大規模な会議における登壇者の男女比率に配慮することが当たり前になりつつある。ビジネス界では、男性登壇者のみのイベントは参加お断り、という方針を公言している男性リーダーもいる。
翻って日本。日々、様々なイベントの広告が目に入るが、大半の場合、登壇者は全員男性で年齢層もほぼ50代以上ばかりだ。経歴重視で人選をすれば自然とそうなるので、特に違和感を感じない人も多いのではないか。しかし、少し視点を変えれば、多くの人の目に触れるイベントやメディアに登場する人々のジェンダーバランスの重要な役割に気付くだろう。
まずは女性や若手が持つ意外性。それを取り入れず発言者の属性が類似していると、発想や感受性にも一定の同質性が存在し、彼らの議論には想定外の展開を期待しにくい。そこに異なる視点や価値観を持つ参加者が加わることで、議論の幅が広がり、相互の発言が「化学反応」を起こし刺激的な討論を期待できるだろう。イノベーションの創出には多様な人材が必要であるとの論理と同様だ。
さらに大規模な会議やメディアといったひのき舞台で女性が活躍すれば、性別役割に関する無意識の偏見の是正にもつながるだろう。人間は知らず知らずに幼児期から周りの環境に固定観念を植え付けられながら成長する。校長先生などボス的な仕事は男性。事務員などアシスタント的な仕事は女性。そんな潜在意識が私たちの人生の選択肢を自ら狭めている。だが、イベントをはじめ、教科書を含む様々なメディアに登場する人物のジェンダーバランスが取れていれば、そうした性別にまつわる先入観も醸成されにくくなる。
百聞は一見にしかず。主役の女性を目の当たりにすることは意識改革の大きな一歩になる。30代で出産、育児をしながら重責を果たすニュージーランドのアーダン首相の姿は、同国の国民の意識に絶大な影響を与えていることだろう。日本でもひのき舞台に上る女性を増やすことが、性別役割に関する社会通念を覆すのに大きく役立つのではないか。イベントなどでの登壇者人選の際は、この点に留意することを提案したい。
経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。米国人の夫と3人の子どもの5人家族。著書に『武器としての人口減社会』がある。
[日本経済新聞朝刊2018年7月16日付]
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