バカリズム、脚本が高評価 リアルな女子トークに共感
近年、芸人の文才にスポットが当たることが増えたが、「脚本」にもその波がきている。劇団ひとりは2016年に映画『クレヨンしんちゃん』で、又吉直樹は17年のNHKドラマで脚本を手がけた。ほかに、シソンヌのじろうが18年1月期の深夜ドラマ『卒業バカメンタリー』で脚本家デビューしている。この流れの先駆けとなったのがバカリズムだ。
バカリズムの脚本作品は12年から世に出始め、14年にはGP帯の連ドラ『素敵な選TAXI』の全10話を担当し、第3回市川森一脚本賞の「奨励賞」が贈られた。それ以降、脚本業は増える一方で、16年秋からは3期連続で深夜ドラマに携わり、17年4月期の『架空OL日記』では、第36回向田邦子賞を獲得。同賞は、大森寿美男や中園ミホら、受賞後にNHKの大河ドラマや朝ドラに起用される脚本家が多く、選考委員には過去の受賞者でもある大石静や岡田惠和らが名を連ねており、脚本界の第一線の評価となる。
『架空OL日記』は、銀行に勤める20代のOLたちの日常が描かれる会話劇。本人が主演し、いつものバカリズムのまま、女性行員の輪に加わっている。チーフプロデューサーを務めた読売テレビの吉川真理氏は、「発想やテーマが独特で、これまでにないドラマになりそうな予感に引きつけられました。以前から『素敵な選TAXI』や『かもしれない女優たち』を見ていて、"もしこうだったら"という部分を膨らませるのが見事だなと思っていたんです」と語る。
女性の本質を描けるのが強み
脚本を読んだときには、会話のうまさに大きな魅力を感じたそうだ。「1本筋の通った物語があるわけではなく、『ハロゲンヒーターが壊れた』とか、『脱毛に行った』とか、こういったエピソードの連続なんです。でも、男性の目を意識しないところでのトークが妙にリアルで、引き込まれるんですよね。書く力があるからこそだと思います。毒もあるけど、めちゃくちゃな悪口でもない。女の素の部分が表れていて驚きました」。
『架空~』のほか、『かもしれない~』や『黒い十人の女』など、女性の本質を描けるのがバカリズムの強みでもある。そこには、彼のバックグラウンドも関係していそうだと話すのは、同局プロデューサーの古島裕己氏。「映画専門学校時代に、周りに女性が多くて、女子トークを日常的に聞いていたようなんです。『架空~』の現場でも、女性陣の中に溶け込んでいて。もしかしたら、脚本の参考にした部分もあったのではと思います」。放送が始まってからは圧倒的な女性支持を得て、「分かる」「あるある」といった共感の声がツイッターやネットにあふれた。
バカリズムがこれだけ引っ張りだこなのは、業界注目度が高いことも1つの要因と考えられる。遅い時間での放送だったが、感度の高い記者に"発見"され、ジャパンタイムズや週刊文春など、様々な記事が掲載された。マルチな活躍ぶりから、次の動向が気になる存在であり、あらゆるジャンルで「チャンスがあれば組みたい人物」の筆頭になっているという。「『架空~』のときと同様、今でも取り合いの状態は続いていると思います」(吉川氏)。
7月に上演される2.5次元舞台など、複数の作品が進行中。読売テレビでももちろん、次の作品を熱望している。向田邦子賞という確固たる評価を得て、脚本のオファーはさらに増えるだろう。
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2018年7月号の記事を再構成]
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