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長い落語も楽に暗記 プロ御用達「イメージ記憶」とは

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

落語会が終わったあと、打ち上げの席で隣に座った方から「よくあんなに長い噺(はなし)をたくさん覚えられますねぇ」と言われることが少なくない。そんなときは「いや、全然大したことじゃなくて、誰でも、簡単に覚えられますよ」と答えるようにしているけど、すると決まって「またまたぁ」とまるで僕が謙遜したように受け取られる。でも本当に、例えば落語を50席くらい覚えるのはそれほど大変なことではないと思っている。

チェックポイントだけ覚えればOK

そこには仕事なんだから噺を覚えて当然だという理由もあるけど、何より世間の皆さんが想像している噺の覚え方と、実際に我々落語家にとっての噺の覚え方に差があることが大きいように思う。

落語の覚え方には「イメージ記憶」と「一言一句」の2種類がある。これは落語界全体で統一された言い回しなどでなく、なんとなく多くの落語家が使っているような言葉だ。

大勢の方は我々落語家が噺の全てを"ちゃんと"覚えていると思われているに違いない。大勢の登場人物が出てくるし、物語もどんどん進んでいくのに、言い間違えたり言葉に詰まったりせず"台本通り"にスラスラしゃべれるなんて、やっぱりプロはすごいなぁと感心してくださる。

台本に書かれた噺をもれなく覚えてしまう方法を「一言一句」とよんでいる。文字通り、一言一句漏らさずに覚えてしまうことに由来する。

確かに台本通り一文字もズラすことなく覚えて、それを高座でやり切るのはとても難しい。それこそプロの技といえる。

でも(少なくとも僕の場合は)そんな風に「一言一句」で噺を覚えることはまれで、大抵は「イメージ記憶」で覚えている。

「イメージ記憶」は噺の部分部分をざっくり覚えてしまうやり方だ。1つの噺の中に、物語の進行にそっていくつかのチェックポイントを用意し、ひとまずそのチェックポイントだけを覚えてしまう。

次のポイント目指して話す

高座ではまず最初のチェックポイントを目指してしゃべり始める。そこにたどり着いたら次のチェックポイント、また次のチェックポイント、と事前に覚えておいたチェックポイントを通過していくうちにいずれはオチまでたどり着く。

「イメージ記憶」のわかりやすい例を挙げると、例えばいま「昔ばなしの桃太郎をしゃべってください」と急に言われても、多分これを読んでいる誰もが「昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。ある日のこと、いつものようにおじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に出かけました。おばあさんが川で洗濯をしていると、川上の方から大きな桃が、『どんぶらこ、どんぶらこ』と流れてきました」というような具合で、何とか最後まで話せるに違いない。それは皆さんが桃太郎を「イメージ記憶」できているからだ。

「桃太郎」という話を、「昔々」「おじいさん」「おばあさん」「山へ芝刈り」「川へ洗濯」「川上から桃」「どんぶらこ」「桃太郎」「きびだんご」「鬼たいじ」「犬」「猿」「きじ」「お腰につけたきびだんご、一つ私にくださいな」「鬼ヶ島」「やっつける」「めでたし」みたいなイメージでざっくり覚えられているから、それらをつなぎ合わせながら話していくと何とか最後までたどり着くことはできる。

一方で「金太郎をしゃべってください」と言われても、しゃべれない方が大勢いるのではないでしょうか? 僕自身も金太郎は今すぐしゃべることはできません。なぜなら金太郎という話はイメージ記憶すらできていないから。「まさかり」とか「クマと相撲をとる」くらいの少ないチェックポイントしか用意できないから、桃太郎のようにチェックポイントをつなぎ合わせて話にする、ということができないのだ。

この2つの覚え方にはそれぞれの長所と短所がある。

「一言一句」は全てを覚えてしまうから、いつでも同じようにしゃべることができる。一方で、全てを決めてしまっているからこそ、わずかな言いよどみでもきちんと言い直してしまい、間違ったことが浮き彫りになってしまったり、何かの拍子にスコンと次の言葉が抜けてしまったりするリスクが高まる。

「イメージ記憶」は細部を決めずにしゃべることができるから、その場の空気に合わせて無駄を省いたり、反応が良い部分は強調したりすることができる。一方で、同じようにはしゃべることは二度とできないから、毎回完成度が変わってしまうし、全てが悪い方に転んで目も当てられないくらいグズグズになってしまうリスクもある。

そんな長所と短所をうまくやりくりするべく、僕はこの「一言一句」と「イメージ記憶」をひとつの噺の中で織り交ぜている。

この部分はきっちり聞かせたいから「一言一句」で。反対にこのあたりはその場の空気によって柔軟に押し引きしたいから「イメージ記憶」で。ここまできたらまた「一言一句」でスラスラしゃべって空気を締めて、また「イメージ記憶」で遊びを持たせて、という具合に。

会社員の経験はありませんが…

思えば、プレゼンの場面なんかでもこの2つの覚え方は有効じゃないだろうか。プレゼン内容の全てを「一言一句」で覚えて、不測の事態で言葉が飛んだりしないくらい何度も反復練習できればそれに越したことはないけど、実際のビジネスシーンではそんな時間の余裕なんかないはずだ。

だったら、まずは全体のチェックポイントを「イメージ記憶」してしまい、桃太郎を「何となく」でしゃべれるみたいに、プレゼンも最後までしゃべれるようにリスクヘッジしておく。その上で、例えば聞き手の気持ちをつかむ冒頭部分や、そのプレゼンで一番押すべきポイント、最後の締め部分なんかを「一言一句」できっちり覚えてしまい、よどみなくしゃべることでプレゼンにもメリハリが出る気がする。

そういえば他にも、「わざと低いトーンで話し始めてこちらに注目させる」だったり「1ブレスでしゃべるワード数をそれまでより急に増やすことで緊張感を高める」だったり、実は我々落語家の高座にはプレゼンにいかせるヒントがたくさん眠っているかもしれない。

ただ残念なのは、僕を含めて多くの落語家は会社員の経験がないため、自分たちが使っているしゃべる技術のどれがビジネスシーンにも応用できるのか、具体的には分からないことだ。

立川吉笑
 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。古典落語のほか、軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載する一方、多くのテレビ出演をこなすなど多彩な才能を発揮する。

これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧下さい。

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