キューバへの熱い思い 伝説の『ブエナ・ビスタ』再来
恋する映画(4)『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』
今回ご紹介する『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』、タイトルに聞き覚えがあるという方も多いと思います。本作は2000年に日本で大ヒットし、いまなお色あせることのない名作といわれている『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の18年ぶりとなる続編。当時は、世界中でブームとなっただけに、映画に熱狂するにとどまらず、CDを購入したり、サルサダンスに挑戦してみたり、もしくはキューバに旅行してみたという人もいるのではないでしょうか? 実際、キューバレストランが流行するだけでなく、キューバへの直行便の就航が始まるなど社会的な影響も与えたほどだといわれています。
奇跡の音楽に世界中が心を奪われた
そもそもきっかけとなったのは、1997年に発表された1枚のアルバム。そのタイトルであり、バンド名ともなったのが「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」ですが、90代のギタリストをはじめ、忘れられていたキューバのレジェンドたちによる卓越した音楽が一大センセーションを巻き起こし、異例の売り上げとグラミー賞の受賞で一躍脚光を浴びることになります。そんな彼らに魅了された名匠ヴィム・ヴェンダースがドキュメンタリー作品として手掛け、その年のアカデミー賞にノミネートされるまでになったのが前作まで。
それに対して、今作で映し出されているのは、予期せぬ成功で人生が一変してしまったメンバーたちのその後から現在までの様子。さらに、これまで使われなかった秘蔵映像や各メンバーたちの知られざる過去、そして音楽としてのルーツなど、前作へのオマージュもささげた構成は、ファンにはたまらない見事な続編となっています。
そして、本作で恋するポイントといえば、何と言っても音楽。日本から遠く離れたキューバの音楽を一気に身近にしてくれたのは、彼らのおかげだと感じている人も多いと思いますが、コンパイ・セグンドの大ヒット曲「チャン・チャン」をはじめ、おなじみの曲を今回もたっぷりと味わうことができます。
年を重ねることで生まれる輝きを実感
劇中ではライブシーンや録音風景など、まるでその場にいるかのような臨場感あふれる映像を楽しむことができますが、彼らの歌声と演奏はまさに「魂の音楽」と呼ぶにふさわしいほど。改めて感じさせられる音楽の力には誰もが圧倒されてしまうはずです。
日本では、年を取ることに対してネガティブな印象がいまだに強いですが、彼らの音楽に重みや奥深さがあるのは、年齢や経験を重ねてきたからこそ。世界中の人々の琴線に触れる音楽を奏でることができた理由を垣間見ることができます。
もともと高齢であったため、残念ながらすでにこの世を去ってしまったメンバーもいるものの、イブライム・フェレールをはじめ最後まで舞台に立つことにこだわり続けた彼らの姿勢は、いくつになっても好きなことを追求することの素晴らしさと人生を輝かせる秘訣を教えてくれるはずです。
生涯現役を貫く姿に刺激を受ける
そのなかでも、同じ女性として感銘を受ける存在といえば、伝説のディーバと呼ばれる歌手のオマーラ・ポルトゥオンド。86歳を過ぎても精力的に歌い続けており、圧巻の歌声はいまも健在で、ホワイトハウスでの歴史的なコンサートの模様も見ることができます。
本作では、グループでの活動に終止符を打つと決めたオリジナルメンバーと若い世代のミュージシャンが「アディオス世界ツアー」と題して各地を回る勇姿もぜひお見逃しなく。音楽、そして人生の美しさに酔いしれる110分を思う存分堪能してみては? まさに真夏の太陽のような情熱を感じさせるいまの季節にぴったりの1本です。
監督:ルーシー・ウォーカー
製作総指揮:ヴィム・ヴェンダースほか
出演:オマーラ・ポルトゥオンド、マヌエル・"エル・グァヒーロ"・ミラバル、バルバリート・トーレスほか
配給:ギャガ
7月20日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
【ストーリー】
社会現象まで巻き起こした伝説の映画『ブエナビスタ・ソシアル・クラブ』。あれから18年。グループによるステージでの活動に終止符を打つと決めた現メンバーが、「アディオス(さよなら)」世界ツアーを決行。カメラは、メンバーのこれまでの旅路や、その死にも迫る。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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