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リアルなW杯伝えたのは… メディアより選手のSNS アジャイルメディア・ネットワーク取締役 徳力基彦

2018/7/21 日経MJ

ベルギーに敗れた後、スタンドのサポーターにあいさつする日本代表(7月2日)=共同

様々なドラマを生み出したサッカーワールドカップ(W杯)。日本代表は残念ながらベスト8進出を目前にしながら、ベルギーに逆転負けを喫したが、優勝候補だった相手に互角の試合を演じた選手たちに勇気をもらった人も多いだろう。

読者の皆さんは今回のW杯において、日本代表選手たちがプレーとは別の面で、W杯のあり方に大きな変化をもたらしていたことに気づいているだろうか。

長友選手(左)や本田選手らのSNS投稿は大きな注目を集めた(6月30日、ベルギー戦に向けた調整)=共同

それは選手たちのSNS(交流サイト)を通じた情報発信だ。

4年前のブラジル大会では日本代表選手は、ほとんど大会期間中にSNSで情報発信をしていなかった。今回のロシア大会では、明らかに選手たちのSNSでの情報発信が、既存メディアの報道をリードしていた。

例えば、長谷部誠選手の代表引退表明は、多くのメディアで大々的に取り上げられたが、引退表明が正式に公にされたのは、長谷部選手自らのインスタグラムのアカウントだった。

長友佑都選手は、ツイッターに「年齢で物事判断する人はサッカー知らない人。」と投稿して物議を醸したり、髪の毛を金髪に染めて「スーパーサイヤ人になってチーム救いたい。」と投稿したり、大会前から積極的にツイッターを更新してメディアに多数の話題を提供した。

大会中には、ドラゴンボールの元気玉をネタにした投稿を実施。ベルギー戦後にファンに感謝するために投稿した写真には60万を超える「いいね」が集まり、多数のメディアで紹介されていた。

スポーツ選手が自らファンに直接声を届ける行為が注目されるようになったのは、12年前のドイツ大会後の中田英寿選手の引退表明が起点だろう。当時は引退会見を開かなかった中田選手に対して、批判的なメディアも少なくなかったと聞く。

しかし、今大会ではもはや多くのメディアが当然のように選手のSNS投稿を元に記事や映像を作成していた。もちろん、SNSで届く範囲には限界があるため、既存メディアの役割がなくなるわけではない。

ただ、選手自らが発信できる時代において、選手とメディアの関係が少しずつ変わりはじめているのも間違いない。

今大会で象徴的だったのは、ポーランド戦における「スタメン6人入れ替え」の情報が、一部メディアで試合前日に記事化されていたことに対して、本田圭佑選手や長友選手が明確に問題提起をしたシーンだろう。本田選手はツイッターで「真実の追求するポイントがいつもズレてるよ。」と指摘。賛同の声を多く集めていた。

従来であれば、選手はなかなか問題提起できなかっただろうし、仮に問題提起しても既存メディア側が記事化しなければ話題にはならない構造だった。

しかし、今は選手のSNS上の発言一つ一つがメディアの記事のネタになる時代であり、選手が直接100万人を超えるファンと直接つながり、声を届けることができる時代となっている。

選手の発言を恣意的に切り取ったメディアが、選手本人のSNSから反論されうる時代になっているわけだ。

同じことは、企業の情報発信にも言える。従来通りメディアを通じた情報発信に頼るのか、自らも情報発信できるすべを持ち、新しいメディアとの関係を模索するのか。

企業がサッカーW杯の選手たちから学べる点は多いはずだ。

徳力基彦
名大法卒。NTTを経て2006年アジャイルメディア・ネットワーク設立に参画、09年社長。14年3月から取締役最高マーケティング責任者(CMO)。

[日経MJ2018年7月13日付を再構成]

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