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ソプラノ佐藤美枝子 優勝20周年に聴かせる歌の花

2018/7/21

交響曲やバレエ音楽、オペラで有名なチャイコフスキーだが、歌曲も103曲とかなりの数がある。「私が実際に勉強したのは70曲から80曲。その中から選んでCDも出した」。チャイコフスキーの歌曲の特徴としては「語りあり、叙情的なものあり、オリエンタルなものあり。詩に基づいてしっかり表現されている」と指摘する。「分からない言葉は辞書で引き、作曲家がどんな経緯でその詩を選んだのかも調べ、詩の内容を自分の身に染み込ませて完全に理解してから歌うようにしている」。詩人と作曲家の関係について理解を深める地道な取り組みだ。

滝廉太郎ゆかりの大分が育んだプリマドンナ

こうしたロシア語の歌でも「イタリアオペラを歌うときのように、外に向けてしっかり発声するよう心掛けている」。日本語と得意のイタリア語はもちろんのこと、ロシア語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、英語のいずれもネーティブの発音と発声法を習得しているのは言うまでもない。その上で、どの言語でも「歌の基本は同じ」と考え、ベルカント唱法に基づいて表現していく。ロシアや中・東欧のスラブ語派民族の歌手が有利といわれたチャイ・コンで優勝したゆえんだ。

ベルカント唱法に基づく歌曲とオペラの歌唱が円熟味を増すソプラノの佐藤美枝子さん(6月6日、都内)

佐藤さんのこれまでの活躍はオペラと歌曲にとどまらない。2007年にはイスラエルの巨匠エリアフ・インバル氏の指揮による英フィルハーモニア管弦楽団との共演でマーラーの「交響曲第2番ハ短調『復活』」のソプラノ・ソロを務めた。ベートーベンの「交響曲第9番ニ短調作品125」やヴェルディ、フォーレの「レクイエム」でもソロを歌うなど、交響曲や宗教曲でも実力を示している。さらには日本のオペラにも精力的に取り組む。10~11月にも團伊玖磨氏(1924~2001年)のオペラ「夕鶴」で、つう役を歌い演じる。

佐藤さんの趣味は花めぐり。好きな花はカサブランカ、バラ、ポピーなど。故郷の大分でコスモスが一面に咲くのを見るのも好きだ。日本の近代歌曲を生んだ明治期の作曲家、滝廉太郎(1879~1903年)は、父の郷里の大分で没した。「大分はクラシック音楽が盛んな土地柄。世界に文化を発信している」と佐藤さんは自負する。そうした環境の中で、高音域のピアニッシモによる可憐(かれん)で繊細な表現、澄み切った声による劇的展開など、芸術音楽へとつながる彼女のセンスが育まれた。世界のプリマドンナは今どんな歌唱を聴かせるのか。優勝20周年に歌の花が咲く。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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