「治る認知症」って!? 治療できる心理症状にも注目

日経Gooday

「BPSDは物忘れや道に迷うなどの認知機能障害と同様に、あるいはそれ以上に認知症の本人を悩まし、家族の介護負担となったり、早期からの施設入所の原因になったりします。しかし、このBPSDは、適切な対応法により治療可能で、さらに予防もできます」(數井さん)

適切な対応法とは、症状が起こる原因を考え、声のかけ方や接し方を工夫することだ。

例えば怒りっぽくなる症状が出ていたら、まずその理由を考えてみる。

「怒りっぽさの背景要因には、協調性がない性格、他に体の病気や症状があることなどが挙げられ、男性に多いです。体の病気があれば適切にコントロールすることで、怒りっぽさは起こりにくくなります。少し前まで社会を担う活動をしてきたのに、家族から軽んじられていると、プライドを維持しようとして怒りっぽくなることもあります」と數井さんは話す。

このような気持ちになるベースには、日常生活の中で失敗が増えることからくる不安がある。そのため、認知症の人が感じている不安をぬぐえるように、大丈夫であることを穏やかな態度、雰囲気で伝えることが大事だ。

「声をかけるときの言葉も大切です。簡潔な言葉でゆっくりと話すこと。論理的な詳しい説明をしすぎると、特に内容が分からない場合は、認知症の人は叱られていると勘違いしてしまいます。また何もすることがない時にBPSDが起こりやすいということも言われています。人間は社会的な生き物なので、何か役割を持ってもらい、『ありがとう』『助かるよ』と声をかけることがとても有効です」(數井さん)

対応法の奏功確率を公開するウェブサイトを開発

認知症の人への声かけの仕方や接し方次第で症状に改善が見られるものの、ケアのマニュアル本で紹介されている様々な対応法が、実際にどれくらい有効なのかについては未検証だった。

そこで、數井さんらは色々なBPSDに対する様々な対応法の有効性を調べるため、ウェブサイト「認知症ちえのわnet」(http://chienowa-net.com/)を開発した。認知症の人に生じたBPSD、これに対して家族介護者たちが行った対応法、そしてその対応法がうまくいったか否かという3つの情報を、介護している全国の人から投稿してもらい、収集した情報を専用コンピュータで解析し、「奏功確率」を公開している。この研究は、日本医療研究開発機構の認知症研究開発事業として、大阪大学と高知大学、東京医療保健大学などが共同で進めている。

「認知症の人へのケア体験を、症状ごと、対応方法ごとに集計しています。困りごとがあるご家族はこのサイトを見て、対応を検討するところから始めてもらえるようになればうれしいです」(數井さん)

例えば「幻覚・妄想」の症状の一つ「ある物が人や顔などに見える」場合。対応方法として「見間違えているものを除去する」は、うまくいった確率が91.7%と高い。「物を盗られたと言う」のなら、「話を聞く」ことが奏功確率100%に(奏功確率は2018年6月末現在。継続的に情報を収集して集計するため変化する)。ささいなことでも、対応法を正しく選択し、実践することで症状の改善が期待できるのだ。

「この手法は、現場での対応法の結果を集計するので、信頼性が高いといえます。投稿を通して、介護で悩んでいるのは自分だけではないことが分かるので、介護者の孤立化の防止にも役立つと思います」と數井さんは話す。

認知症の人への症状の対応がうまくいかないと、介護する側はイライラが募り疲弊しやすい。効果の高い対応法を共有できれば、認知症の本人はもちろん、その周囲の人たちも穏やかに過ごしたり、支えたりすることができるだろう。

(ライター 福島恵美 図版作成 増田真一)

數井裕光さん
高知大学医学部神経精神科学教室教授。神戸市出身。兵庫県立高齢者脳機能研究センター(当時)、大阪大学大学院医学系研究科精神医学分野などを経て、2018年1月より現職。専門は老年精神医学。認知症の人やその家族を支える兵庫県川西市の「つながりノート事業」を支援。認知症の人への適切な対応法を研究し、公開しているウェブサイト「認知症ちえのわnet」の研究代表者を務める。治る認知症「特発性正常圧水頭症」の診療・研究にも取り組む。
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