スパイダーマン顔負け 高層ビルを登頂したアライグマ
2018年6月12日、1匹のやせたアライグマが人々の目を釘付けにした。米ミネソタ州セントポールの25階建てのUBSタワーを登り始めたからだ。今回は、その映像をご覧いただきたい。
当初、数階登った時点では、その上を目指すかどうか決めかねているようだった。だが、アライグマは、地上に降りるよりも登ることを選んだ。途中、仮眠を取ったり、毛繕いのために休んだりしながら、25階建てのビルを登り続ける。アライグマの奮闘する様子は、インターネットに動画で相次いで投稿された。
そして、13日未明、アライグマはビルの屋上に到達。キャットフードとケージに迎えられ、捕獲された。
実は、アライグマの特技は登ること以外にもある。
まず、とにかく適応能力が高い。都市化が進むにつれ、私たち人間はアライグマの生息環境を変えた。森林はコンクリートジャングルとなった。環境の変化に適応できない生物が多い中、アライグマは順応しているようだ。特に、抜け目のなさでは、都会のアライグマのほうが田舎のアライグマより上だ。
カナダ・トロントのヨーク大学の心理学教授スザンヌ・マクドナルド氏は2014年、ふたが付いたごみ箱の底にキャットフードを置く実験を行った(マクドナルド氏はナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラー:協会が支援する研究者)。田舎のアライグマはごちそうのにおいを嗅ぎつけると、ごみ箱の底を目指した。一方、都会のアライグマは、ごみ箱のふたに襲いかかった。
次に感覚が鋭い。かぎ爪が付いた小さな手足は、動画のとおり登るのに最適だが、この手足は驚くほど触覚が鋭いことは知られていない。アライグマは普通の哺乳類に比べ、手足に4~5倍の感覚細胞を持つ。しかも、感覚信号の処理をつかさどる脳の部位のうち、実に75%が触覚に使われている。マクドナルド氏は過去のインタビューで、「彼らはものを見なくても、頭の中にイメージを浮かべることができます。文字通り、手足で見ているのです」と説明している。
そして、とても賢い。「カラスと水差し」というイソップ物語の内容を模した有名なテストがある。まず、くちばしが水面に届かない水差しを用意する。小石を水差しに落とし、水かさを増やさなければ、水を飲むことはできない。カラスはこのテストに合格する知能をもつことで知られる。
2017年の研究によれば、このテストに合格するアライグマがいることがわかった。このテストでは、シリンダーに水を少しだけ入れ、マシュマロを浮かべる。そして、研究者がシリンダーに石を落とし、水位を上げて見せる。すると、8匹中2匹が同じ行動を取り、おやつを手に入れた。独創的な方法で、研究者たちを驚かせるアライグマもいた。そのアライグマはシリンダーを倒し、マシュマロを手に入れた。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2018年6月15日付記事を再構成]
詳しい記事はこちら
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。