シニアの栄養状態 把握する最適なたんぱく質指標は?
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1)尿たんぱく
(2)アルブミン
(3)クレアチニン
正解は、(2)アルブミンです。
シニアの健康の指標になる数値とは?
老化を遅らせる食生活指導の第一人者である元・人間総合科学大学教授の熊谷修さんは、老化はたんぱく質の減少と密接に関係しており、老化を進めるのも遅らせるのも、たんぱく質がカギを握っていると説明します。
実は、高齢者に多いとされる病気の数々も、たんぱく質の減少が原因になっていることが多いそうです。「例えば、背骨を構成する椎骨を見ると、その間にサンドイッチ状にはさまっている軟骨(椎間板)に、多くのたんぱく質が含まれていることが分かります。この軟骨組織からたんぱく質が抜けていくことにより、脊椎の圧迫骨折が起きやすくなります。背骨には神経の束が入っていますから、そうした神経が刺激されて痛みも発生します」(熊谷さん)
「さらにたんぱく質が抜けると、軟骨だけでなく骨の部分からもたんぱく質が抜けて、骨が硬くデコボコ・ゴツゴツしてくる状態になります。骨の弾力性がなくなって変形してくるために、これが強い痛みの原因となります。骨が変形することで、神経の通り道である『脊柱管』が狭くなると、いわゆる『脊柱管狭窄症』になるわけです」(熊谷さん)
では、老化のカギを握るたんぱく質が、血液中にどの程度の量があればいいのでしょうか、そして、不足して老化が進みやすいレベルはどのあたりなのでしょうか。
熊谷さんは、その最良の指標となるのが「アルブミン」の値だと話します。アルブミンは血液中を流れるたんぱく質の約60%を占めるもので、通常は加齢に伴って少しずつ低下していきます。
アルブミンは、コレステロール値や肝機能の値などと同様に、血液検査で簡単に調べることができます。ただし、会社で行われる健康診断や、メタボ対策の特定健診では測定項目に含まれていません。人間ドックでは必ず測定するので、人間ドックを受診するか、個別にかかりつけ医師に相談して測定してもらう必要があります。
「アルブミンは、病気を早期発見するための検査ではないために軽視されがちですが、シニアにとってはとても重要な検査項目です。40歳を過ぎたら、かかりつけ医に相談するか人間ドック受診の際など、年に一度は測定するとよいでしょう。アルブミンの数値は、『体の中で筋肉と骨格の占める割合』と正比例することも分かっています」(熊谷さん)
たんぱく質の栄養状態がいいグループほど老化が遅い
熊谷さんは、平均71歳の元気なシニア女性190人を対象にして、アルブミンの値と歩行速度の関係を調べた研究を行っています。アルブミンの値によって190人を4.3g/dL以上、4.1~4.2g/dL、4.0g/dL以下の3グループに分け、最大歩行速度を8年間にわたって測り続けました。
その結果、右図のように、調査開始時のアルブミンの値が高いグループほど、最大歩行速度が衰えにくいというデータが出ています。そして、歩行速度は介護リスクと関係しているということも分かっています。つまり、たんぱく質の栄養状態を示すアルブミンの値が高いシニアは、老化が遅いわけです。
では、アルブミンの値はどのくらいが適切なのでしょうか。検査結果の血液検査の項目を見ると、3.8~5.3g/dLあるいは3.7~5.5g/dLなどと基準値が記されています。
「臨床医学的には3.8g/dL以上あればいいとされていますが、この下限値では少なすぎます。私たちが数多くのシニアを対象に行った調査では、最低でも4.0はないと老化のリスクが回避できないと考えています。できれば、4.3以上ほしいですね。この考え方が世界の潮流です」(熊谷さん)
東北大学の研究グループが仙台市宮城野区鶴ヶ谷地区の70歳以上住民を対象に行った3年間の追跡調査では、住民832人をアルブミンの値により4つのグループに分け、3年以内に死亡、あるいは要介護になるリスクを比較しています。それによると、アルブミンが3.9~4.1g/dLのグループから急速にリスクが高まっていることが分かります。「このことからもアルブミンの値が4.0g/dLあたりが分岐点になると考えられます」(熊谷さん)
(日経Gooday編集部)
[日経Gooday2018年7月9日付記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。