和服姿で日本酒を世界の人々にアピール

ほかには価格がリーズナブルで、旨口系日本酒として高評価の「大七純米生もと」(福島県/大七酒造)や、同じ生もとでも上品で洗練された味わいの「大七箕輪門」(同/同)なども人気がある。オバマ前米大統領にも供された酒の蔵として外国人に特に認知度が高い賀茂鶴酒造(広島県)の「大吟醸 特製ゴールド賀茂鶴」なども不動の地位を占める。製法は異なるが、いずれも全体的なバランスが良く、料理に合わせやすいので外国人ファンが多いという。

日本酒を海外に売り込むビジネスは現在、大手の卸売事業者がメインだ。舘谷さんは大手の戦略とは一線を画した独自の方法で日本酒を海外に売り込んでいる。

まずは富裕層から日本酒の価値を理解してもらう

舘谷さんは大手と被らない蔵元や日本酒の普及が遅れている海外の都市部を探し、高級飲食店や富裕層に直接訪問して売り込んでいる。リゾート地には富裕層の別荘も多く、そうしたエリアで独自にルートを開拓している。「効率はあまり良くないですが、美食家が多く、日本酒に興味を持つ層が確実に存在するからです」と舘谷さんは見ている。

舘谷さんの日本酒のプレゼン方法は至ってシンプル。日本酒の説明をして、テイスティングをしてもらう。そして蔵元の熱意を必死で伝えるだけだ。

舘谷さんが外資系金融機関から、日本酒の世界に転向したのには訳がある。東日本大震災で大打撃を受けた福島の酒の名誉を挽回したいという思いがあったという。日本酒の魅力を伝える姿勢に熱がこもる理由はここにあるのだろう。

自身は福島県の末廣酒造の酒に感動した。しかし東日本大震災が起きて、「福島の酒というだけで海外の人に嫌われていました。香港の知り合いが福島の酒のボトルを放射線検知器でチェックしているのを見て、がく然としました」という。舘谷さんは一念発起し、脱サラを決意。その後3年で、きき酒師、国際きき酒師、酒匠(さかしょう、日本酒のテイスティング専門資格)、日本酒学講師(日本酒を教えることができる資格)、そしてワインソムリエ、一般酒類小売業免許……と酒関連の資格を相次ぎ取得。世界に日本酒の魅力を精力的に伝え始めた。

日本酒は海外では高級品。「まずはハイエンドな層に日本酒を売らないと成功しないと思っている」と言う舘谷さん。現地の富裕層にダイレクトに売り込み、その価値をわかってもらえれば、いずれ各国のすそ野まで日本酒熱は広がるはずと信じている。繊細な日本酒の品質管理が行き届かない可能性があるので、あえて現地のスーパーなどには卸さず、酒の価値が分かる人々に個別に直接売り込んでいるのだという。

(GreenCreate 国際きき酒師&きき酒師 滝口智子)

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