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マイナス94℃! 地球最低気温、南極高地で記録

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/7/16

予想どおり、特に温度が低い場所が100カ所ほど氷床の頂上付近に分散していた。詳しく調べたところ、温度が低くなっている場所は平らではなく、浅いくぼみになっていた。英国南極観測局の極地研究者、ジョン・ターナー氏によれば、おそらく谷や渓谷と同じように、くぼみに冷たい空気が沈むからだろうという。なお、ターナー氏は今回の研究には参加していない。

「このようなくぼみはとても浅く、目で見てもわからないはずです」とターナー氏は言う。

空気は、地表付近でわずかに温められる。ボストーク基地の科学者が計測したのはこうした気温だった。衛星による観測と、直近の観測基地のデータを比べることで、スカンボス氏のチームは、この地域では人の身長ほどの高さの気温は、約マイナス94℃とわずかに暖かくなっているだろうと指摘する。なお、地表の足が雪に触れるあたりの場所の気温はマイナス98℃だった。

「ただし、足で雪に触れたいとは思わないでしょう」とスカンボス氏は話す。「決して楽しい体験にはなりません」

■宇宙観測にも最適

これほどの超低温になるのは、非常に特殊な条件がそろったときだけだ。まず真冬で、その季節に最後に太陽が沈んでからかなりの時間が経過している必要がある。さらに、数日間にわたって空気が大きく動くことなく、氷床の上に雲やダイヤモンドダストがない完璧な晴天でなければならない。

人間からすれば、氷は冷たいものではあるが、実際には微量の熱を放射している。通常、その熱のほとんどは大気中の水蒸気に吸収され、また地表に戻されるので、熱は大気の下層に閉じこめられることになる。

しかし、南極の乾期の大気に、水蒸気はほとんど含まれない。それをスカンボス氏は、「通常、地球上の他の場所では開くことのない窓が開き始めます」と表現する。すると、地表から発せられるわずかな熱がはるか上空にまで逃げるようになるので、表面温度はさらに低くなる。

このような極寒状態を作り出す晴天は、宇宙観測にも理想的だ。そのため、スカンボス氏のチームが示した超低温地点から数キロしか離れていない場所にも、望遠鏡が設置されている。

高仰角南極テラヘルツ望遠鏡(High Elevation Antarctic Terahertz Telescope、皮肉なことに「熱」という意味のHEATと略される)を運営している米アリゾナ大学の天文学者クレイグ・クレサ氏は、「水蒸気は最大の敵なのです」と言う。「私たちは、この超乾燥地帯に望遠鏡を設置しました。しかし、十数キロ先の方がもっとよかったのでしょうか?」

HEATのある一帯はすでに最適の場所といえるものの、気候変動を考えれば、その十数キロも検討に値するかもしれない。温暖化により、大気中に凝縮された水蒸気の量は増加しているので、氷が発する熱は地表近くにより閉じこめられやすく、地表は温まり続けることになる。つまり、宇宙観測に最適な澄み渡った空が見られる回数が減るということだ。地球表面の最低温度の観測記録を破りたいと考えている科学者にとっても、もう時間切れなのかもしれない。

「温室効果ガスや凝縮された水蒸気が増えるにつれて、南極は3~4℃ほど暖まると考えられています」とターナー氏は話す。「低温記録を更新できる機会はますます減っていくでしょう。その可能性は小さくなる一方です」

(文 Alejandra Borunda、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年6月29日付]

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