きな粉や黒ゴマ、新感覚韓国かき氷 夏のひんやり美味
じりじりと暑い夏が到来した。気温が30度を超えるような日に口にしたいのは、さっぱりとした氷菓子。そこでこの夏、注目したいのは韓国発のかき氷。実はこの2年ほどで日本に新感覚の韓国かき氷店が急増しているのだ。
口火を切ったのは、2016年に初上陸した「ソルビン」。2013年に釜山に1号店を開いた新しいタイプの韓国かき氷のパイオニアだ。創業者のチョン・ソンヒさんは、10数年前飲食ビジネスを学びに来日したが、そのときの体験をきっかけに同店を開いた。韓国では当時、若者に振り向かれない伝統菓子が、日本では時代の変化を取り入れながら広い世代に受け入れられていたからだ。
韓国の伝統菓子といえば、餅やきな粉、アズキあん、ゴマ、イモなどを用いたお菓子。これらを使った新しい商品はできないかと考えた末にたどり着いたのが、「雪氷(ソルビン)」だった。ミルク味のかき氷で、粉雪のように細かく削られた氷を用いている。
韓国では昔から、アズキあんをトッピングしたかき氷、パッビンス(パッがアズキ、ビンスがかき氷)が親しまれており、「雪氷」を使ってこれを現代的にアレンジ。伝統菓子の食材を使うほか、フルーツを華やかにトッピングしたメニューを開発し、爆発的な人気を得た。
「ソルビン」は今や韓国国内で約500店舗を展開するほか、上海やバンコクにも出店。日本では現在、東京・原宿の本店をはじめ、博多、仙台など5店舗を展開する。
日本進出1号店である「ソルビン 原宿」を訪れた。1番人気は、「きな粉餅ソルビン」。ミルク味のかき氷の上にたっぷりときな粉がかかり、軟らかな求肥を思わせる餅やアーモンドがトッピングされたものだ。フルーツなどを使ったカラフルなかき氷もある中、地味なことこの上ない。メディアで紹介される華やかな韓国かき氷を見て、インスタ映えが人気の理由ではないかと推し量っていただけに意外だ。
粉っぽいきな粉とかき氷は合わないのではないかと思ったが、きめ細かな氷にはきな粉がよくなじむ。和菓子を食べているような感覚だ。アーモンドや餅で食感に変化も生まれ、最後まで食べ飽きない。
「ソルビン」には、ほかにも韓国の伝統を色濃く映したかき氷があり、目を引いたのはたっぷりと黒ゴマをトッピングした「黒ごまの小豆ソルビン」。アイスクリームにゴマを混ぜ込んだゴマアイスは日本でもポピュラーだが、黒いゴマに覆われたかき氷は別次元の迫力。つぶあん、きな粉餅、アーモンドがトッピングされており、1食分ぐらいの食べごたえ。かき氷の山にスプーンを入れると、氷の層の間にきな粉も仕込まれていた。
「ソルビン」同様のふんわりとしたミルク味のかき氷を看板商品とした店は、韓国で一気に増加。日本でも拡大中で、今年4月には現地で約30店舗を展開するカフェ「コッビン」との提携店「セレクトカフェ コッビン」が東京・自由が丘にオープンした。同店は7月1日から8月31日まで、神奈川県の由比ガ浜海水浴場のビーチハウス「avex beach paradise」にも期間限定で出店している。
自由が丘の店の店内はピンク基調でとてもかわいらしい。店の隅には韓国におけるかき氷の歴史を古い写真と共に紹介した壁があったが、「女性のお客様に、せっかくかわいい店なのにこの壁があるとインスタ映えしない」と言われたらしい。いいコーナーだと思っていたので、今時の「映える条件」というのを教えられた気がする。
「コッビン」のメニューで「インスタ映えもして圧倒的人気」(同店)だったというのは初夏までの季節のメニューで、イチゴをふんだんにトッピングした「生イチゴヨーグルトコッビン」。また、日本独自に開発した通年メニュー「桜あんコッビン」は、かき氷の上に大きなピンク色の桜あんや、串だんごがトッピングされた女子心をくすぐる一品だ。客の9割は女性だが平日は20~50代、週末は10代の客も目立ち、年齢層は幅広い。
生イチゴはさっぱりとした味わいで、桜あんは、専門店から仕入れているというだんごのしっかりとした味わいが印象的。インスタグラムなどの客の画像投稿も、赤やピンク色の「生イチゴ」や「桜あん」が目立つのだが、「コッビン」の韓国の店ではやはり一番人気はきな粉餅かき氷だそう。こちらの「たっぷりきなこ餅コッビン」には、「ソルビン」より大きめの餅がトッピングされていた。同店のかき氷にはいずれもソースが添えられ、これで味を調節しながら食べるスタイルだ。
さて、冒頭で紹介した韓国の昔ながらのかき氷、パッビンスには、実はアズキあんだけでなく、ミスッカルと呼ばれるものがトッピングされている。ミスッカルとはきな粉に似た穀物の粉で、ダイズのみから作られるきな粉とは異なりもち米など何種類もの穀物の粉を合わせた伝統食品。韓国では水や牛乳に溶かして飲んだりもするものだ。
これを嫌う人がいるので近年はフルーツだけをトッピングしたかき氷などが人気になったと以前聞いたのだが、大ブームとなったきな粉餅かき氷の発想の原点は、このミスッカルにあるのだろう。
そこで訪れたのが、懐かしのスタイルのかき氷を出す東京・新大久保の「韓流茶房」。同店のパッビンスはアズキあんやミスッカルだけではなく、アイスクリームやキウイフルーツ、パイナップルなどのフルーツを合わせている。
実は韓国では、日本のようにかき氷を少しずつ崩しながら食べるのではなく、トッピングとかき氷をよく混ぜて食べる。韓国料理のピビンパ(ご飯に色々な具を載せた料理)を食べるときと同じ要領だ。それぞれの独立した味ではなく、全部を混ぜて食べるからこそ、複雑な味わいが楽しめるというわけだ。
同店では当初、客にそうした韓国流の食べ方を紹介していたが、「最近はやめたんです」とはオーナーの金賢稀さん。「日本のお客様は、日本の食べ方と違うため、戸惑われる」からだ。しかし、金さんはそこで一考、以前はかき氷の上にトッピングしていたアイスクリームやミスッカルをかき氷の下に入れることで、全体をよく混ぜなくても自然にそれぞれの素材が混ざり合い、韓国流の味わいを楽しめるようにした。
そのため、「韓流茶房」のかき氷は一見、様々なフルーツとつぶあんをトッピングしたシンプルなかき氷に見える。だが、スプーンを入れるとそこにはミスッカルの層やバニラアイスクリームがのぞく。今時のミルクかき氷のトレンドも取り入れ、器にはミルクも仕込まれている。さくっとスプーンを入れかき氷をすくって食べると、確かに様々な素材が合わさった味わいになる。
でも、どうせなら本格的な韓国流の食べ方もしてみたいと全体を念入りに混ぜ合わせると、粗めに削られたかき氷の粒やフルーツが浮く白い氷水のようになった。この「氷水」をすくって食べると、これが爽やかで暑い夏にぴったり。同店には、韓国の伝統茶(13種から選ぶ)とパッビンスのセットメニューもあり、これが人気だという。
ちなみに、「ソルビン」や「コッビン」のきな粉餅かき氷も韓国では同じように混ぜて食べるらしいと聞き全体を混ぜて食べてみたが、こちらは日本流の食べ方の方がおいしいという印象。韓国の伝統菓子を映したかき氷は、日本人にもどこか懐かしくリピートしたくなる味。ちょっぴりいつもとは違ったかき氷を食べたいと思ったら、是非トライしてみてほしい。
*価格はすべて取材時点、税込み
(フリーライター メレンダ千春)
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