アサヒ「透明ビール」 毎月進化、味わいの軽さ追求
アサヒビールが透明な発泡酒「クリアクラフト」を開発した。2018年6月下旬、7月下旬、8月下旬と3回に分け、各3000杯を直営の4店舗限定でテスト販売する。6月25日に始まった初回の販売は、早い店ではわずか2日で売り切れ、遅いところでも7月4日までに完売した。
クリアクラフト開発の中心となった開発プロジェクト部の西山雅子氏、酒類開発研究所開発第一部の大橋巧弥氏から商品開発の苦労などを聞いた。
透明なビール系飲料の開発は8年前に遡る。真夏のビーチサイドなど、ビールの味が「重く」感じてしまうときに、もっと軽く飲めるものを作りたいと西山氏が考えたのがきっかけだ。そして、無色の飲み物はすっきりして見えることから色をなくすことに挑戦したのだ。「MS(Mirai Special)」というコードネームを付け100回以上の試作を繰り返した。が、当時の技術では透明にしようとすると、アミノ酸不足から、イオウのような不快な臭いが残ってしまい、それを取り除くことはできなかった。
2017年11月からアサヒビールでは、小規模な製造設備を使って革新的な商品を開発して直営店で販売する仕組みを始めており、そこで再チャレンジが始まった。
今回はビールが重く感じられる理由の一つとして、「ビールを飲むとおなかが膨れる」といわれるのを解決しようとした。
アミノ酸を除いたら、臭いも色も消えた
おなかが膨れるのは炭酸のせいで仕方ないと思いがちだが、チューハイやハイボールを飲んで「おなかが膨れる」と思う人よりもビールを飲んでそう思う人の方が多い。そこで、ビールに含まれるアミノ酸が満腹感をもたらすのではないかと考えて、アミノ酸を取り除いてみることにした。
通常、ビールを醸造するときはアミノ酸が酵母の栄養となり、酵母を増殖するという過程が入る。8年前に開発に失敗したときは、アミノ酸を減らしてはいたが、なくしてはいなかった。そしてアミノ酸不足によって不快な臭いが残ってしまったのだ。
ところが、アミノ酸を最初から取り除いて酵母の増殖過程をなくしたところ、発酵速度はゆっくりになるものの、不快な臭いを出さずにアルコール発酵が可能になった。さらに、アミノ酸をなくしたことにより、色も付かなくなり、透明という目的も達成できた。
他の酒類のテクニックも取り入れる
「これでいいと思ったら、西山は満足しない。『もっとすっきりさせたい』と言うんです」と大橋は振り返る。
そこでクリアクラフトではさらに、ユニークな方法を導入した。
ビールは醸造酒であり、酵母の発酵で作る。酒類にはこのほか醸造した酒を蒸留することで複雑な香りや高いアルコール度数を持つ蒸留酒、さらに近年人気が高い缶チューハイなどの原料アルコールに香料や味成分を加えた「調合」によるものがある。
通常のビール系飲料は醸造した原酒で作るが、クリアクラフトでは、すっきりした味わいの蒸留酒をブレンドし、香料や香辛料の成分も加えている。上記3つのすべてを取り入れているのだ。香料や香辛料の成分としては例えば唐辛子由来の「カプサイシン」を加えている。炭酸のプチプチ感とカプサイシンによる刺激は神経にとっては同じなので、炭酸を少し弱くした分をこれで補っているのだ。これも味わいを重くしないためだ。
ビールではないが飲みやすい
クリアクラフトを試飲した。オレンジのようなフルーティーな香りがあり、優しい味わいで飲みやすい。苦みはゼロではないがビールと比べるとかなり少ない。ビール好きな人よりも、普段ビールを飲まない人に受けるのではないかと思った。
6月下旬から販売した初回醸造のものでは、アルコール発酵が完全にはならず、糖分が少し残ってしまったという。そのためかすかに甘みが残る。それも優しい印象につながったのだと思う。西山氏は次に作るものでは甘みを減らすと言っていたが、個人的にはそのままでもいいような気がした。このあたりはもともとビール党なのかどうかで意見が分かれるようだ。実際に飲んだ人からもさまざまな意見を得ており、次回はそれも考慮して味わいを調整していくようだ。
現在は7月下旬(21日ごろ)発売予定の第2弾の仕込み中。8月下旬の第3段のときは、料理との組み合わせも提案したいという。一つの製品が月ごとに進化していくというのも面白い。7月、8月にどういう味わいになっているのか飲んでみたくなった。
(デジタル編集部 松原敦)
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